AIは人間がやるべきことを明確にする:
AIが作ったラーメンを食べて感じた、これからのAIとの付き合い方
前橋で実践されていたAIラーメンチャレンジ
「AIが人間の仕事を奪う時代が来る!」と言われて久しいですね。筆者はのんべんだらりと生きている人間ですから、「いやー、自分なんかすぐにAIに取って代わられちゃうんだろうな」などと思っていましたが(危機感を抱くべきだろう、と言われればその通りです)、なかなかその気配はありません。
そうはいっても、世の中ではビジネスでもホビーでも二言目には「AI」が出てくるような流れです。AIによる画像生成で「ラーメンを食べている人」を出力させると、麺を手づかみで食べるような画像が出てきたのも今は昔。
2024年3月現在では、ちゃんと「箸でラーメンを食べている人」が出てくるどころか、動画さえ出力できるようになっているのですから。
AI技術の進歩は目覚ましいものがあります。人間の仕事を奪うかはともかくとして、今以上にAIに向き合う時代になっていくでしょう。では、我々はどのように付き合うべきか?
日本の起業家の教育・発掘・育成を加速し、世界に通用する起業家輩出をめざす国内最大級となるイノベーションプロジェクト「UPDATE EARTH」。3月2日、最大2万人が収容可能の「日本トーターグリーンドーム前橋」で、「UPDATE EARTH 2024 ミライMATSURI@前橋」が開催されました。
そこでも、AIを活用している技術が多数見られました。筆者がこれからとのAIとの付き合い方を感じたのは、ラーメンです。えっ、ラーメン? はい、ラーメンです。
このイベントでは、未来のラーメンの可能性をアップデートするような試みがありました。日本最大のラーメン情報メディア「ラーメンWalker」と日本屈指のラーメン店主たちがUPDATE EARTHのコンセプトに共鳴し、強力タッグを組んだのです。
東京の「百麺」(宮田朋幸店主)、埼玉の「中華そば四つ葉」(岩本和人店主)、千葉の「魂麺」(山西一成店主)といった人気実力店と、前橋のラーメン店「とりよしらーめん」(湯浅恒彦店主)「アンドレカンドレ」(藤沢克成店主)がタッグを組んで、AIと対話しながら前橋のご当地ラーメン作りに挑戦しました。
ラーメン店主がAIとの対話を形にする
そこで登場したのが、有名店主×AIが作り出す“前橋ラーメン”。その名も、「AI前橋ラーメン〜前橋もつ煮ラーメン(味噌味)〜」です。価格は1500円。群馬県のソウルフードである「もつ煮」を主役にし、群馬県や前橋市の食材を活用したラーメン。
「前橋の名産品は?」「ご当地ラーメンを広めるためには?」「海外からの観光客に受け入れられるためには?」などといった内容でAIと対話。AIから提案されたおよそ1000種類のレシピを店主たちが厳選し、試作を重ねて新たなご当地ラーメンを完成させました。
ポイントは「店主たちが厳選し、試作を重ねた」ということだと思います。AIがいくらレシピを提案したといっても、それを形にするのは人間の手によるものです。
前橋の名産品や、群馬県の有名な食材などを挙げることは難しくはないかもしれない。しかし、観光客に受け入れられるアイデアや、これまでにはない味の組み合わせを「とにかく大量に出す」ことや、今ある発想を「瞬時にまとめてもらう」ことはAIの得意技。
1000を超える数のレシピから、「もつ煮と味噌ラーメンを組み合わせましょう」という意見を選び、どういった味のラーメンにしていくか……という段階で、人間の力が必要になっていきます(厳密には、AIに指示をするのも人間の作業ではあるのですが)。
そして、仕込みにどれくらいの時間がかかるか、1日に何杯提供したいか……ということも考慮していかないといけません。このあたりは人間が判断するというより、「AIにできること」と「人間がやるべきこと」を切り分ける手順が必要になりそうです。
筆者も「ChatGPT」などで、長い文章を箇条書きにしてもらったり、見出しの案を考えてもらったりすることがあります。何かしらの作業をやってもらう間に、別の作業をやったり、AIにはできないこと(筆者の場合、食べ物の感想を表現するとか、わかりにくいボケを考えるとか)に時間を割くことが可能です。
AIにできることはやってもらい、AIにできないことに集中する。そういった意味では、AIは人間の仕事を奪うのではなく、仕事の中で「人間がやるべきこと」を明確にするのでしょう。プロジェクトのチームに「AI」というメンバーが参加するイメージでしょうか。
AIの提案に危険性はないか? 誰かの権利を侵害していないか?
ただ、積極的にAIを活用することで、向き合うべき問題も出てきます。
現在でも、AIの活用にはさまざまな議論があります。たとえば、AIを用いた画像生成サービスについては、他人の画像を勝手に学習した結果を出力するような、著作権侵害のリスクはよく言われているところ。
あるいは、AIのチャットボットに医療や法律といった専門知識が必要な質問を投げかけると、ネット上の誤った知識に基づいて答えてくるケースもある。
ラーメンについても、同じことがいえるかもしれません。AIが提案してきたラーメンが、他店の模倣になっているかもしれない。チャーシューの調理方法を聞いたら、安全性に問題がある調理手順を提案してくるかもしれない……。
ただ、ラーメン(というか、料理)の場合、レシピに著作権はないという点にも留意すべきでしょう。自身の憧れの店に味を似せるというのはよくある話ですし、修業した店舗の味を引き継ぐケースだってあるわけです。
「AIが提案した味が、あのお店にそっくり(似ている)」「誰かが考案して有名になったレシピそのまま」などという場合に、その事態を把握しているのか、それを知ったときにどう判断するのか。これは、AIを使う/使わないとはまた違った問題なので、慎重な議論が必要でしょう。
提案に危険性はないか、誰かの権利を侵害していないか。今以上にAIを活用していくうえで、避けては通れないチェックポイントです。“AI時代”に人間がやるべきこととして、「倫理」あるいは「道徳」といった面が問われてくる時代になるのかもしれません。
判断するのは(まだ)人間の領域
そして何よりも、感性、感覚の問題です。AIが提案したラーメンを作るにあたって、“おいしそう”かどうかは、人間が決めることになります。
ChatGPTは音声と画像に対応した機能が追加され「マルチモーダル」化しましたが、「クロスモーダル」(異なる五感の相互作用。視覚、嗅覚、味覚が相互に作用し合うこと)はまだまだ苦手。
ラーメンでいえば、写真を見せて「これはラーメンです」と文章にすることはできても、それが“おいしそう”かどうかを出力するのは難しいようです(このテーマに興味のある方は「新しくなったChatGPTにできること、できないこと」をぜひ読んでください)。
AIにラーメンの作り方を聞いて、できあがったものの見た目が“おいしくなさそう”だったらどうでしょうか。それ以前に、AIが出してきたラーメンの作り方を聞いて、“おいしそう”と感じられるでしょうか。そもそも、“おいしそう/おいしくなさそう”を見極めるのは、AIなのか、人間なのか。
AIが提案する速度や、その物量だけを見れば、人間をはるかに凌駕するといっても過言ではありません。しかし、そこから出てきたものは、感性で認められるものなのか、誰かの権利を侵害しないものなのか。AIのアイデアを「選択」し、作り上げたものを良いと「判断」するのは、まだ我々の領域なのです。
AIが作ったラーメンを食べて感じた、これからのAIとの付き合い方。筆者は「AIは人間がやるべきことを明確にする」「AIの提案を選択し、判断するのは人間であることを忘れてはならない」という感想を(今のところ)抱きましたが、皆さんはどうお考えでしょうか。
もっとも、AIがますます我々の生活に入り込んできたとき、“人間がやるべきこと”の定義はまったく異なるものになっているかもしれませんが……。
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