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【麺歴20年のテレビマンが紡ぐ! 読むだけで美味しいラーメン「物語」】特別編

生涯取材を断り続けてきた“総帥”の多大なる功績と知られざる実像に迫る!貴重すぎる映像記録がついに公開! ラーメン二郎(東京・三田)

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 私がラーメンを食べる上で「味」よりも大切にしているのが「物語」。「物語」は何にも勝る最高の調味料。お店がこれまで紡いできた「物語」と、私が勝手にお店と紡いでいる偏りまくった「物語」を紹介します。

 ……なんですが、今回はちょっと特別編です!

 すっかりコラムの執筆が滞ってしまい、ご無沙汰してしまい申し訳ありませんが、今回どうしても書かせて頂きたいことがございまして、久しぶりに筆を執らせて頂きました。

 実は、今週3月30日(水)の深夜24時55分(厳密には木曜日の午前0時55分)より、関東ローカル放送なのですが、私が制作に携わったある番組を放送することになりました。その番組のタイトルが、

「ラーメン二郎という奇跡 ~総帥・山田拓美の“遺言”~」

 そう、ナントあの「ラーメン二郎」のドキュメンタリー番組なんです!

“総帥”こと山田拓美氏

ラーメン二郎の総本山である三田本店

 このコラムを読まれている方は、ラーメン好きがほとんどでしょうから、今更「ラーメン二郎」の説明は不要かと思いますが、一応簡単に。

 お店の創業は1968年。目黒区の都立大学駅の近くに店を構え、70年代に入り港区三田の慶應義塾大学のすぐ近くへと移転。それ以来、慶應生のソウルフードとして愛されると同時に、その唯一無二の味は多くの人を魅了し続けています。支店も次々と増え、今や都内を中心に42店舗のお店が存在。その全てのお店が連日大行列を作るなど、「ラーメン二郎」は50年以上に渡り絶大な人気を誇る、いわばラーメン界の一大カリスマ店です。

 凝縮された豚の旨味と香味野菜が織りなす、芳醇(ほうじゅん)かつ濃厚なスープ。それに負けない、力強くてしなやかな自家製の極太麺。まるで豚の塊のような、分厚くてホロホロのチャーシュー。そして、希望すれば、無料で山盛りのニンニクと野菜が増される。味も見た目も強烈なインパクトを放つラーメン。そのパワフルな一杯は、「二郎はラーメンではない。二郎という食べ物である」「三回食べると抜け出せなくなる」など、独特な格言めいた言葉と共に、「ジロリアン」と呼ばれる数多くの中毒者を輩出。その人気はラーメン界にとどまらず、芸能人、スポーツ選手、政治家など、各界にファンを公言する者も多く、もはや社会現象となっています。

親父さんが作った一杯

 私自身も、これまで約20年に渡って「ラーメン二郎」を食べ続けてきた大ファンの一人です。過去にこのコラムでも、様々なラーメン店で紡いできて「物語」を書かせて頂きましたが、二郎とこれまで紡いできた「物語」も数知れません。それこそ、二郎というラーメン店は、ニンニク入れるか否か悩んだり、圧倒的な量と格闘したり、いつもとちょっと味が違うブレを楽しんだりと、多くの人たちが「物語」を紡ぎやすいお店だと思います。実際、今回の番組の情報が解禁された際、ネット上には放送を喜ぶ声と共に、おのおのが二郎と紡いできた「物語」を紡ぐファンたちの声が溢れていました。

 その一方、「ラーメン二郎」はその熱狂的な人気と相反するように、お店を守るために徹底して「取材拒否」を貫いています。だからこそ、二郎はこれだけの人気を誇りながらも、多くの部分がベールに包まれ、謎に満ちているのです。

 しかし今回、「ラーメン二郎」のドキュメンタリー番組が特別に放送されることとなりました。一体何があったのでしょうか?

 話は2019年2月に遡ります。「ラーメン二郎」はこれまで慶應大学と共に歩んできましたが、その慶應の「特選塾員」に、二郎の創業者であり、“総帥”という呼び名でファンからも愛され続けている山田拓美氏が選ばれたのです。この特選塾員とは、慶應義塾に多大なる貢献をした人が選ばれるらしく、シンプルに言ってしまえば、山田氏は慶應大学卒業に等しい資格を与えられたということなのです。これまで50年以上に渡って慶應生の胃袋を満たしてきたことを考えると、当然と言えば当然…… とはいえ、改めて慶應大学の懐の深さを感じます。

 それで、特選塾員に選任されたことを記念して、これまで一切メディアの取材に応じることがなく、一切の映像資料が残っていない山田氏の功績を形に残すことを目的として、特別に番組が制作されることとなったのです。なので、「ラーメン二郎」は、今後も従来通り、取材はお断りするそうです。これは本当に貴重な番組なのです。

 では、なぜこんな貴重な役目を、私が果たすことができたのか?

 「それは私が二郎から大きな信頼を得ているからです!」なんて言えたらカッコいいのですが、残念ながらそうではありません(笑)。 実は私の勤めるフジテレビに、40年以上に渡って二郎を食べ続けていて、親父さん(私はいつも山田氏のことを「親父さん」と呼んでいるので、ここからは「親父さん」と書かせて頂きます)や各支店の店主さんからも絶大な信頼を得ている、「常連の中の常連」とも言える、ある意味伝説の人物がいたのです。

 その男の名前は坂井公祐(さかいこうすけ)。坂井さん(すいません、本来同じ会社の人間なので「坂井」と書くべきなのですが、私にとって尊敬してやまない先輩なので「坂井さん」と書かせて頂きます)の「ラーメン二郎」との出会いは1980年。当時から二郎は慶應生の通過儀礼的な役割を担っていたそうで、坂井さんも慶應義塾大学に入学したことをきっかけに二郎を食べることになりました。

左から坂井さん、親父さん、筆者

 その後すっかり「ラーメン二郎」の魅力にハマり、大学を卒業して、フジテレビに入社後も二郎に通い続けることに。坂井さんが凄いのは、そこから今に至るまで、それこそ40年以上に渡って、ほぼ毎週のように親父さんのいる「三田本店」に通い続けているのです。親父さんとの関係の深さは言うまでもありません。

 さらに、「ラーメン二郎」では支店を出したいと希望するお弟子さんは、本店で最終修業を行なうので、必然的に毎週通っている坂井さんは、お弟子さんのことをよく知ることとなります。こういったお弟子さんが晴れて独立が認められて支店を出すと、坂井さんはそこにも定期的に顔を出すのです。もちろん、毎週本店に通いながら(笑)。 私は、そんな坂井さんとたまたま同じ会社の後輩だということで、坂井さんのお供をさせて頂き、結果親父さんや支店のお弟子さんにも顔を覚えてもらうことができたのです。

 こうして、「親父さんと二郎の記録を映像に残す」という話になった時に、親父さんの一番近くにいたテレビマンが坂井さんと私だったということで、この超重要ミッションを我々で担わせて頂くこととなったのです。このお話を頂いた際、光栄だと喜ぶよりも先に、「これはとんでもない話を頂戴してしまった」という重圧に圧し潰されそうになったことをよく覚えています。

 撮影はまず、2019年2月の「特選塾員証授与式」から始まりました。この日親父さんは、支店のお弟子さんと常連さんたちからプレゼントされた「銀座・壹番館洋服店」で仕立てたジャケットに身を包み、会場入りしました。無事授与式が終わり、その後軽い立食パーティーがあったのですが、そこで「この高いジャケットを汚したら大変だからな」と、腰を「く」の字に曲げて、汚さないように料理を食べる親父さんの姿が忘れられません(笑)。 親父さんの優しさを目の当たりにした瞬間でした。

「く」の字に腰を曲げている親父さん

 そして、2019年5月に親父さんのロングインタビューを撮影しました。この日は本当に緊張したな……。なにせこれまで公の場で語られることのなかった「ラーメン二郎」と「山田拓美」の歴史を紐解くという、超貴重なインタビューの聞き手をやらせて頂いたワケですから。二郎ファン、ラーメンファンが聞きたいであろうことをひとつも漏らすことなく聞かなくては、と必死に質問しました。

インタビュー撮影時の親父さん

 これまでまことしやかに都市伝説のように語られていた話の真相から、坂井さんも含めて常連でも誰も知らないような新事実まで、本当に面白い話がたくさん聞けました。親父さんの口から語られる人生は波瀾万丈で、まるで大河ドラマを見ているかのようでした。まさに「物語」です。インタビューはナント5時間にも及び、もう全てをノーカットでお見せしたいくらい面白いのですが、さすがにそれはできないので……。本当に神経をすり減らして必死に編集しました。

 特に、今でも強烈なインパクトを放つ「ラーメン二郎」のラーメンを、50年以上も前に親父さんはどうやって生み出したのか? 個人的にはその秘密に迫れたことに興奮しました。半世紀以上にも渡って人々に愛され続けるなんて、もはや芸術品であり文化です。その深淵を覗かせて頂いたことに感謝しかありません。

 その他にも、スープ、麺、豚など、ラーメンに対する細かいこだわりについて、改めて親父さんが真剣に語ったり、昨今の「二郎人気」についても言及しています。また、40人を超える各支店の弟子たち、50年以上連れ添ってきた奥様、そして二代目としてお店を継ぐ息子さん、それぞれへの想いを恥ずかしそうに親父さんらしい言い回しで紡いでいます。

 また、親父さんへのインタビュー以外にも、三田本店の仕込みから片付けまで、営業の様子に丸一日密着しました。お弟子さんや奥様にもインタビューを敢行しました。慶應の体育会の部員が鍋を持ってお店にラーメンを買いに来る「鍋二郎」の様子や、営業前に常連客が店内で親父さんと話をする通称「朝礼」の様子まで撮影することができました。本当にあらゆる角度から「ラーメン二郎」と親父さんの魅力に迫ることができたと思います。

 さらに、2020年2月に行なわれた親父さんの喜寿を祝うパーティーの様子もしっかりカメラに収めることができました。このパーティーは、親父さんの喜寿を祝うと共に、特選塾員に選ばれたことも祝うために開かれたもので、「慶應義塾大学」と「ラーメン二郎」、それぞれの関係者が何と1000名近くも駆け付ける事態となったのです。親父さんが「生涯一番幸せな日」と語った、そんな伝説のパーティーの様子もお届けします。

約1000名による記念撮影

 結果的に、足掛け3年に渡る長期取材となりました。一度取材を受けると決めたら、とことん付き合って下さった親父さん。この親父さんのサービス精神こそ、「ラーメン二郎」の真髄なのではないでしょうか。口では「知らねぇよ」「冗談じゃないよ」と言いながらも、実は誰よりも優しさに溢れている。今回の撮影の中で、お弟子さんが「二郎のラーメンは親父さんそのもの」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りだと思います。

 「豪快だけど実は繊細」「果てしない愛に溢れている」。そんな「二郎」のラーメンと親父さんのことが、もちろんこれまでも大好きだったのですが、今回番組を作らせて頂いて、新たにたくさんの「物語」を紡がせて頂いて、ますます好きになりました!

「ラーメン二郎という奇跡 ~総帥・山田拓美の“遺言”~」。3月30日(水)深夜24時55分〜関東ローカル放送。

 この番組は、「ラーメン二郎」、そして「総帥・山田拓美」の全てが詰まった1時間となっています。これを見れば、なぜ人がみな「ラーメン二郎」に魅了されるのかが分かるはずです。そして、この番組を見た人はみな、翌日二郎に並んでしまうことだと思います(笑)。

 是非あなたにも「ラーメン二郎」のラーメンを、あなたなりの「物語」を紡ぎながら食べて頂きたいです。

赤池洋文 Hirofumi Akaike (フジテレビ社員)

2001年フジテレビ入社。ドラマ「ラーメン大好き小泉さん」、ドキュメンタリー「NONFIX ドッキュ麺」「RAMEN-DO」などラーメンに特化した番組を多数企画。大学時代からの食べ歩き歴は20年を超え、現在も業務の合間を縫って都内中心に精力的に食べ歩く。ラーメン二郎をこよなく愛す。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @ekiaka

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