【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第27回
牛骨ラーメンの『マタドール』から、北千住『らぁ麺屋のさかいさん』が独立。親しみやすい雰囲気で修業の成果を味わう!
牛骨を使ったラーメンで一世を風靡し、北千住で愛されてきた『牛骨らぁ麺 マタドール』。2号店を長年任されてきた酒井康年さんが、2023年8月23日に独立。2号店の店舗をそのまま譲り受け、『らぁ麺屋のさかいさん』と自身の苗字を冠してオープンした。牛骨、味噌、塩、限定のパンプキンポタージュ……? 11年間の修業時代のラインナップが続々登場すると聞いて、早速、さかいさんに気になる話を伺った。
北千住『マタドール』2号店を受け継ぎ、“さかいさん”が独立
酒井康年さんが、ラーメンの道に進んだのは32歳の時。それまではバイクが好きでバイク店に勤めたり、ルート営業をしたりなど、様々な職を転々としていた。転機は、人材派遣会社で働いていた頃。リーマンショックで人材派遣業界も大きな影響を受けて、酒井さんは別の道に進もうと考えた。「ちょうどその時、嫁が体調を崩していたので、1、2ヵ月くらい家でご飯を作ったりしてたんです。もともと料理もラーメンも好きだったからラーメン店で働くのもいいかなと。ただ、飲食業は初めてだったので、教えてもらいたいこともいっぱいある。一人で全部やらせてもらえる個人店で、地元から近い店を探して、行きたい店に全部食べに行きましたね」と酒井さん。その中の1軒が柏の葉の『らーめん工房 けや木』だった。
働き始めて3年、ラーメン新人王大会に出るなど次の道を模索していた頃、マタドールの2号店『みそ味専門 マタドール』の求人を目にした。もともとマタドールが好きだった酒井さん。すぐに面接に向かい、採用となった。
2014年2月から9年間、修業を積んできた酒井さん。『みそ味専門 マタドール』から『柳麺マタドール』へとリニューアルし、2018年からは店長として店を任されていた。職を転々としてきた酒井さんが「マタドールのマスターじゃなかったら長くは続いてなかった」と語るほどの、師匠・岩立伸之マスターとは? 「マタドールに入って、作り方も全然違いますし、考え方自体が厳しかった。マスターは、怒鳴りもしないけど、理路整然とこれはこういう理由でこうなっていくんだよっていうのを教えてくれましたし、分量も本当にきっちり、スープを表面張力で量るとか何回もやりましたね。“神は細部に宿る”って言葉があるじゃないですか、それだと思います。自分なりに変えたところもありますけど、そうすることも想定されている。守って壊して考えて作り直すってところまで、“守破離”も教えてもらいました」。
ここ数年は、店の定休日に巣鴨の『ラーメンいいかお』で間借り営業も始めていた。独立を考えていたところ、岩立マスターから店をそのまま引き継いで独立しないかと話があった。コロナ禍の影響もあり、酒井さんが独立すると、2号店は閉業せざるを得ない状況だった。「長年の恩を返したい」という気持ちもあったという酒井さん。2023年8月23日、慣れ親しんできたこの場所で、マタドール・岩立マスターの弟子として、『らぁ麺屋のさかいさん』をオープンした。
店名を『らぁ麺屋のさかいさん』と “さん”まで入れたのは、「さかいさんのところに行こうか」と言いやすく、親しみやすいから。「苗字そのままは自分のイメージじゃない。ちゃん系はいっぱいありますけど、さかいちゃんも違うなと(笑)。スタッフにも店長と呼ばせないで“さかいさん”で通してましたし。みんなが『帰ってきたよー』って気軽に来れるような店にしたかった」。
マタドール直伝の「牛中華」は、スープやタレ、香味油、トッピングも牛全開!
肝心のラーメンについて聞いてみると、「まずは、牛中華から決めました。マタドールの弟子っていうのをわかりやすくしたかった。マタドールと言えば牛ですからね」と酒井さん。早速、思いのこもった牛中華をいただいた。
見た目は、これまでにないナルトや海苔、細竹の子のカット具合も昔ながらの中華そば風と、懐かしく親しみやすい雰囲気。でも、スープはマタドール直伝の牛骨に鶏と乾物を追加した牛をしっかり味わう仕上がり。さらに、牛バラチャーシューを煮たタレ、牛バラスライスを煮たタレと、牛の出汁をタレにものせて、一口目から牛の旨味が口の中で全開に! タレには、ちば醤油とナンプラーを合わせてあるのがマタドールの弟子らしい。
しっとりとした牛バラチャーシューは、マタドールお馴染みのソミュール液に漬け込んでスチコン(スチームコンベクションオーブン)仕上げ。香味油に牛脂、牛バラチャーシューの下にも牛の小腸・油かすをたっぷり潜ませて、とことん牛づくしの一杯だ。
味噌らぁ麺が新味で復活! 修業時代の限定も続々登場で常連も大喜び
牛をたっぷり感じるベースのスープは、塩らぁ麺、味噌らぁ麺にも共通で、それぞれタレを変えて仕上げている。「塩らぁ麺もタレは、ほぼ塩と牛脂で構成してます。塩だけ鶏チャーシューなんですけど、マタドールの時には使ってなかった塩麹で漬けてます。以前、麹らぁ麺に醤油麹は使ったことがあるんですが、色が茶色くなるのが嫌だったので。間借りの時に作ったんですよ」。
修業時代の財産に、酒井さんのオリジナリティをプラスした新たなラーメンは、塩だけじゃない。
味噌らぁ麺は、マタドールのリニューアルで封印されたメニューだ。その後もお客様から毎日、夏でも欠かさず、「味噌ないの?」と、言われることが多かったという。お客様の要望を叶えるために、味噌らぁ麺を復活させた。それも、以前の味にこだわらず、酒井さんが作り上げたオリジナルの味噌らぁ麺だ。
共通のスープに合わせるタレは、野田市の蔵元・窪田味噌醤油の味噌を使用。表面に光る牛脂の香味油や牛バラチャーシュー、その下に隠れている油かすを嚙みしめると、味噌のやさしい味わいの中に牛の旨味が満ちあふれる。
醤油、塩、味噌と基本の麺メニューを3種類そろえるため、合わせる麺も試行錯誤したという。「最初は、醤油も塩も間借りの時に使っていた北海道産小麦『春よ恋』配合の麺を使ってたんです。何か違うなと思って、途中から本店と同じ全粒粉入りの細麺に変えて。それが1週間くらい経った頃に三河屋製麵の営業さんが来てくれて、相談して醤油だけ間借りの時に使っていた麺の細いタイプに変えました。味噌には中太麺を合わせて、3種類とも茹で時間も違いますが変えてよかった。マタドールの時から三河屋製麵の営業さんにお世話になってるんですけど、ずっと変わらず信頼してます」。
炊き込みおにぎりは、間借りの時に作った新サイドメニューだ。やさしい味付けで、スープをかければ、牛の旨味を余すところなく味わえる。本店と同じ、五ツ星お米マイスターの資格を持つ市川米店の米だ。「マタドール時代からお世話になっているお米屋さんにラーメンを食べてもらって、牛中華メインに選んでもらいました。お米屋さんも、神なんですよ」。
11年を振り返ると、限定麺の存在も大きい。「イタリアンまぜそばが終わったら、年明けは牛骨白湯で家系風を作る予定です。あと、ハロウィン限定のパンプキンポタージュらぁ麺を何度も食べに来て、また食べたいって言ってくれた方もいたので、2月くらいにバレンタインバージョンで再販しようかと考えてます。他にもバンバン作りますよ!」。
限定麺は、毎年待ち望んでいる人も多く、常連人気が高い。「限定麺をSNS発信するのに、常連さんからハッシュタグをこう入れたらいいよとか、インスタのやり方を教えてもらってます。店内の写真入りPOPも常連さんが作ってくれて、『私、酒井さん推しだから』って言ってくれたんです。そういう奇特な方がいらっしゃるんです(笑)。マタドールじゃなくなっても、この場所に俺がいればよかったんだなって、嬉しくなりましたね」。
ラーメンの作り手として、岩立マスターを尊敬する酒井さん。今ではコックコートを脱いでTシャツに衣替えして営業しているが、「マスターをリスペクトしてるから、コックコートのデザイン画を残しました」と笑顔を見せた。しかし、自身が作りたいラーメンは違う。「マタドールのようなワンランク上のラーメンもいいなと思いますけど、作りたいのは週に1回食べたい、お昼のローテーションに入るようなラーメンですね」。
師匠から受け継いだものに、酒井さんの穏やかな人柄のようなエッセンスが詰まったラーメンは、あったかい気持ちになる美味しさにあふれている。
らぁ麺屋のさかいさん
東京都足立区千住旭町43-13
平日11:30〜14:30/18:00~21:00 日祝11:30〜16:00
水曜休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna
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