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【フジテレビプロデューサー赤池洋文が紡ぐ!読むだけで美味しいラーメン「物語」】第19回

小泉さんも絶賛! 極貧生活、和食の修業、大震災……稀有な壮絶人生の末に辿り着いた「カワイイ」お店 マルソン(東京・青梅)(後編)

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 私がラーメンを食べる上で「味」よりも大切にしているのが「物語」。「物語」は何にも勝る最高の調味料。お店がこれまで紡いできた「物語」と、私が勝手にお店と紡いでいる偏りまくった「物語」を紹介します。

 先週に続き、2週に渡って私が「物語」を紡ぐのは、多彩な絶品ラーメンと、カワイイお店で人気を誇る「マルソン」。

東京都青梅市の名店「マルソン」

 前回、店主の丸山申孫(もうそん)さんの稀有で「壮絶人生物語」の前編を紡ぎましたが、今回はその後編です!

「マルソン」店主の丸山申孫(もうそん)さん

 (※前回までのあらすじ)
 幼い頃に極貧生活を体験し、食に対する強い想いを持って、和食料理人となった丸山さん。神戸に自身のお店を開くも、阪神・淡路大震災で倒壊。その後上京し、老人ホームでの調理の仕事に専念しますが、再び自分のお店を持ちたいという想いが去来します。こうして丸山さんはナント、家族に一切の相談もなく、勝手にお店の賃貸契約を済ませてしまいました──(前編はコチラ(https://ramen.walkerplus.com/article/4016670/))

 「思い立ったら即行動」の丸山さんは、まず老人ホームに「今月で辞めたい」と申し出ます。突然のことに驚かれたものの、何とか受理してもらえました。そして、ようやく家族に報告です。

 「来月からラーメン屋をやる。物件も決めてきた。ホームも今月で辞める」。

 突然こんな話を聞かされて、奥さんも当時中学生だった息子さんもビックリ! 当然大反対です。しかし、すっかりラーメン屋さんモードに入ってしまった丸山さんは、「行列ができる画しか浮かばない」と、もう止まりませんでした。

 こうして2011年10月、「つけ麺屋 丸孫商店(マルソン)」をオープン。当時、濃厚系のつけ麺が流行っていたので、つけ麺一本に絞ったお店にしました。しかし、開店当初は、物珍しさで多少お客さんが来てくれたものの、2週間と持ちませんでした。昼から夜まで通し営業で、お客さん1名なんてこともザラ。最寄りの河辺駅からも徒歩で10分以上、周りにほとんどお店もない所で、しかも半地下という目立たない立地。事前の宣伝も一切なし。当然と言えば当然の結果です。

 ただ、肝心のお味の方は相当自信があったハズ。何せ和食料理人としての腕もあり、老人ホームでは1000種類ものラーメンを作った経験もあったワケですから。ところが、丸山さんは「自信はあったのですが、ヒドイものでした」と振り返ります。基本ラーメンは、タレを出汁で割って作りますが、完全独学の丸山さんは、そんなことすら知らなかったのです。全ての食材を入れて、そこに調味料を合わせて煮込む。まさに日本料理と同じ作り方をしていました。これが繊細な出汁系ならばともかく、濃厚なつけ汁だったので、まさにごった煮状態となってしまい、食べた客が咳き込むような仕上がりに。ついには、お客さんから「近所につけ麺の美味しいお店があるから一度食べに行ってみた方がいい」とアドバイスされる始末……。

 本来ならば屈辱的な出来事。しかし、丸山さんは、このアドバイスに素直に従い、実際に他の人気ラーメン店に通って勉強をしました。そして、入れる食材を見直して、タレと出汁を別々に作るようにして……と、1つずつブラッシュアップしていったのです。

 実際、現在提供されているつけ麺を食べると、そんな紆余曲折があったとはとても思えないクオリティです。

大人気のつけ麺

 魚介と野菜だけで仕上げられたつけ汁は、濃厚ながらもくどくなく、洗練された美味しさを感じることができます。

 いい意味でこだわりがなく、人に何か言われても、「一理あるかも」とそこから何かを得ようという柔軟性が、丸山さんの武器とも言えます。実際「マルソン」というお店は、そうやってお客さんと一緒に作ってきたのです。

 つけ麺一本で始めたハズのお店も、オープンからたった2ヶ月後には、「ラーメンないの?」というお客さんの声を受けて、すんなりとラーメンの提供を開始(笑) 。

 このラーメンも、最初はつけ麺のスープをただ割っただけものから始まって、試行錯誤を繰り返しました。ある時、「味だけではなく、見た目でも何かインパクトを出したい」と、貝を貝ガラごとラーメンに乗せたところ、当時はまだこのような盛り付けをしているお店が少なく、これが大好評。こうして、現在の看板メニューでもある「魚貝煮干中華そば」が誕生しました。

看板メニューの「魚貝煮干中華そば」

 ちなみに、この「魚貝煮干中華そば」に乗っているのが、ホンビノス貝。

 「マルソン」がこのホンビノス貝を使い始めたことで、この貝の存在を知った人も結構いるのではないでしょうか。実は、この貝の存在も「ハマグリにも負けないような美味しい出汁が出て、しかも安い貝があるよ」と、常連の方に教えてもらったそうです。

 元々、和食料理人としての確かな腕を持つ丸山さんが、お客さんのアドバイスや他店の作り方を貪欲に吸収した結果、「マルソン」のラーメンはみるみる美味しくなっていきました。それと同時に、ラーメンの見栄えもどんどん美しくなっていきました。ここには、若き日に日本料理や生け花で培った美的センスも、大いに役に立っていると言います。

 オープンして3年くらいが経ち、ようやくお店も軌道に乗り始めました。少し余裕が出てきた丸山さんは、ラーメンだけでなく、お店自体の見栄えも変えようと思い立ちます。元々お店はかなり老朽化した居抜き物件で、メニュー表もワープロで打っただけのシンプルもの。今の「マルソン」からは信じられない程、店内は殺風景で古びていました。

 目指した方向性は「カワイイ」。これには、丸山さんの確固たる持論がありました。

 「本当にカワイイものが好きなのは、女性ではなく男性だと思うんですよね。男性にアイドル好きが多いのがその証拠。女性は本来カッコイイものが好き。でも、男性に好かれたいから自分がカワイくなろうとするんです。つまり、『カワイイ』を前面に打ち出せば、男性も女性も集まると思ったんです」。

 いささか極論のような気もしますが(笑)、結果この「カワイイ路線」の打ち出しは大成功を収めます。

ポップなロゴ

カラフルな色彩で彩られた店内

至る所にキュートな落書き

 店内は、元々丸山さんが好きだったピンクを基調として、カワイイ装飾を施しました。メニューもクレヨンで描き直し、カウンターにもクレヨンで、過去の限定メニュー名を落書きのように描きました。結果、男女問わずお客さんが店内の写真を撮るような、素敵なお店に変身。店名も、特にハッキリと謳ってませんが、漢字の「丸孫商店」から、カタカナの「マルソン」へと緩やかに変更しました。

 さらに、丸山さんは「マルソン」にメルヘンの要素を加えます。それが「ハイデン.コッコ」です。「ハイデン.コッコ」とは、店内にも大きなイラストが飾られている、何とも形容しがたい動物のようなキャラクター。

謎キャラ「ハイデン.コッコ」

 突如、この謎のキャラである「ハイデン.コッコ」が「マルソン」に登場し、お客さんの間で話題となりました。一体何者なのか?これまで丸山さんも、曖昧な説明しかしてきませんでしたが、今回その真相に迫ることに成功しました!(笑)。

 「マルソン」では、毎週水曜と土曜の2回、「部活」と呼ばれる限定メニューを提供されています。この1日限りの限定を求めて、昼も夜も食べに来るお客さんが現れるようになり、「昼練・夜練みたいだね」という話から「部活」と命名されました。

 その「部活」のメニューが、毎回メルマガで配信されるのですが、ある時、丸山さんがそこに「マルソンの『部活』の『顧問』は『ハイデン.コッコ』と言います」と書きました。「部活の顧問」つまり、限定メニューを考えているのが、「ハイデン.コッコ」だという突然の発表。これにお客さんたちが「ハイデン.コッコって誰だ?」「実在するのか?」と騒然となったのです。

 もちろん限定メニューを考えているのは丸山さんなのですが、ちょっとしたイタズラ心で、そんなことを書きました。そして、ちょうど娘さんが描いたイラストがあったので、それを「ハイデン.コッコ」としてアップ。ちなみに、「ハイデン.コッコ」には特に意味はなく、丸山さんの頭にふと浮かんだ言葉でした。丸山さんが作り上げた「メルヘン物語」に、お客さんも面白がって乗ってきてくれたのです。

 当然架空のキャラだった「ハイデン.コッコ」ですが、これがひょんなことから実在の人物として現れることになります。それは、奥さんの知り合いの息子さんが「マルソン」を手伝うことになったのがきっかけでした。その息子さんは料理人を目指していたのですが、とあるレストランの面接に落ちてしまい、自信を失っていました。そこでしばらくの間、「マルソン」で預かることになったのです。

 ところが、いざその彼に会ってみると、キアヌ・リーブス似のとんでもないイケメンで、まるでモデルのような佇まい。あまりのカッコよさに思わず丸山さんは閃きました。「ハイデン.コッコになってくれないか?」。

 「ついにお店に『ハイデン.コッコ』が来ます!」

 そのメルマガに、お客さんたちは沸きました。ナントその日、「ハイデン.コッコ」を一目見ようと、100名近い人が並んだのです! しかも、「ハイデン.コッコ」が予想外のイケメンだったこともあり、出待ちやプレゼントが殺到するまでに発展。こうして、「メルヘン物語」が現実になったのです。

 そして、リアル「ハイデンコッコ」君は、「マルソン」で人気者になったことで自信を取り戻し、以前落とされたレストランの面接を再び受けて見事合格。料理人としての夢に向かって再スタートを切りました。丸山さんは、彼が辞める際、記念に「ハイデン.コッコ」という文字の入ったどんぶりを作り、それが今も使われています。

 まさにお客さんと一緒に作るお店である「マルソン」だから実現した「ハイデンコッコ物語」でした。

 「マルソン」はすっかり人気店となり、「マルソンで働きたい」という従業員も増え、丸山さんが厨房に立たなくてもお店が回るようになりました。ちょうどそこへ「ラーメン屋さんをやってくれないか?」と依頼が来たのです。以前丸山さんがバイトをしていた、福生市拝島のガソリンスタンドのオーナーさんからでした。ガソリンスタンドの近くに空き物件が出て、そこを丸山さんに任せたいと。

 オーナーからのリクエストは、「普通のラーメンを出してほしい」というもの。「普通ってなんだ?」。丸山さんは悩んだ末に、地鶏と煮干しを使ったシンプルな2種類のラーメンを作りました。どちらも醤油がキリッと立った淡麗の、まさに凛々しいラーメン。店名も「らーめん凛々(りりぃ)」と名づけました。

2号店「らーめん凛々(りりぃ)」

 2号店の誕生です。2016年のことでした。丸山さんは現在、こちらのお店に立っていて、連日大盛況です。

 というわけで、「行列ができる画しか浮かばない」と言って始めた丸山さんは、その発言を現実のものとしました。これまで何度も危機的状況を迎えましたが、絶対にやらなかったことが一つあります。それは、借金を作らないこと。「マルソン」を開業する時も、手持ちの資金で用意できるものだけで始めました。茹で麺器が買えなかったので、鍋で麺を茹でました。寸胴がなかったので、大きなやかんでスープを炊きました。食器は100円ショップのもの。売り上げが立ってきて、ようやくクーラーを入れることができました。

 「融資を受けてしまうと、その返済を考えて、食材にお金をかけなくなってしまう」。借金がないからこそ、今あるお金をフルに使って、ラーメンを作ることができます。「マルソン」の限定ラーメンは、「これで採算取れているのかな?」というものがしょっちゅう登場しますが、それを実現できる秘密はここにあるのです。

 また、丸山さんは「マルソン」で働くスタッフに、ラーメンではなく、限定メニューとして、鮮魚を捌いて寿司を握らせたり、揚げ物、焼き物、煮物、練り物なども実技として教えています。「マルソン」で2年以上働くことで、国家資格である調理師試験を受験できる技術を習得させようとしているのです。

スタッフが握る「寿司」も人気の限定メニュー

 「調理師学校に行くと200万円以上かかるところを、給料をもらいながら経験を積んで、調理師免許を取得させたいんです」と、丸山さんは言います。実際これまでに1人、調理師試験に合格しています。「これならお金がなくて、お腹が空いている人も、将来に希望が持てるかなと思いまして……」。まさに自身が食べ物に困るほどの極貧生活を送ったからこそ実践している、素晴らしい試みです。

 突然自主映画を撮ったり、ラーメン屋を始めたり、突拍子もない行動で周囲を驚かせてきた丸山さんですが、その芯には物凄くしっかりとした信念があるのだと、深く感銘を受けました。そんな丸山さんに、今後の目標を聞いたところ……、

 「元々ファッションが好きなので、デザイナーになりたいんですよね!」

 へっ!? いや、ラーメン屋さんとしての今後の目標を聞いたつもりなんですけど……、

 「魅力的で素敵な仕事が溢れているこの世の中で、なんで1つの仕事に絞らないとダメなのか?」

 そう語る丸山さんの顔は大真面目。決して冗談ではなさそうです。実はこの取材の間、横にはずっと奥さんがいたのですが、奥さんも「ラーメン屋さんの前例がありますからね。家族はドキドキしてますよ」と、気が気ではない様子でした。実際、今や丸山さんがお店に立たなくても、「マルソン」も「凛々」も回るほど、優秀な若者が集まっているわけですから……。やはり丸山さんは、一筋縄ではいきません(笑)。

 何はともあれ、優秀な若手スタッフがいる限り、「マルソン」と「凛々」がなくなることはないので、安心して美味しいラーメンを楽しみながら、予測不能な丸山さんの今後に注視したいと思います!

 是非あなたにも「マルソン」と「凛々」のラーメンを、あなたなりの「物語」を紡ぎながら食べて頂きたいです。

個人的なイチオシメニュー「凛々しい特製カルピスバターのまぜソバ」

鳴見なる先生ファンもぜひ!

赤池洋文 Hirofumi Akaike (フジテレビ社員)

2001年フジテレビ入社。ドラマ「ラーメン大好き小泉さん」、ドキュメンタリー「NONFIX ドッキュ麺」「RAMEN-DO」などラーメンに特化した番組を多数企画。大学時代からの食べ歩き歴は20年を超え、現在も業務の合間を縫って都内中心に精力的に食べ歩く。ラーメン二郎をこよなく愛す。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @ekiaka

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