ラーメンWalker発! 「未来を輝かせるラーメンストーリーズ」第15話
80種類もの食材を駆使して創るオンリーワンの味! 世界が認める『SOBA HOUSE金色不如帰』ラーメン誕生秘話
ラーメンWalkerがテーマを決めて名店店主とともに新たなラーメンをお届けする企画。5月18日~30日は、『SOBA HOUSE金色不如帰』が4度目の出店! 世界的ガイドブックで4年連続一つ星を獲得した名店ながら、その道のりは険しかった。今回、2種類の新作を披露した山本敦之店主に、改めて唯一無二のラーメン誕生秘話と歩み続けてきたラーメン道を伺った。
もっとも厳しい修業に身を置き培ったのは、1日5杯から這い上がった精神力
『SOBA HOUSE金色不如帰』店主・山本敦之さんがラーメン屋を志したのは、26歳の時。建築の仕事をしていたが、お客さんから直に喜ばれる飲食店の仕事に憧れていた。「その中で何をしようか考えた時に一番好きだったラーメン屋を目指した」。そして、よく通っていた永福町にある有名な老舗ラーメン店の門戸を叩く。何度も面接に行き、1年ほどかかってようやく雇ってもらえたラーメン店での修業は過酷なものだった。それでも2000年からほぼ休みなしで修業しながら、自宅で試作を重ねて自分の味づくりを始めたという。
「最初は卒業して暖簾分けで独立できたらと思ってましたが、ラーメン業界の流れを見て何か違うなと思い始めて。自分のブランドを立ち上げたい気持ちが強くなったんです」
自分のブランドを作るためにはどういうラーメンを作ったらいいか考えた時、さまざまな食材がある中で選んだのは蛤だった。「他の店で使ってる食材だと人の真似になるから、使ってないものを探していって、結局、自分が一番好きだったのが蛤なんです」。試作が完成に近づいていった時、4年半勤めた修業先を退職した。
物件を探し始めた時、最初に紹介されたのが幡ヶ谷の創業地だった。見た瞬間、行列を作るイメージが湧いたという。この幡ヶ谷の裏路地で、2006年1月11日、『そばはうす 不如帰』を創業した。
念願のラーメン店を開業したが、人が通らないような路地裏で、周りの人から相手にされず悔しい思いをしていた。1日5杯程度の売上が続き、2年経っても鳴かず飛ばずだった。
「毎日泣きながらスープを捨ててました。クオリティを上げるにはどうしたらいいだろうと考えても、経験も浅いし、技術も知識も何もない状態で、しかも、僕のラーメンにはお手本がないんですよ」
一口食べてカウンターの上に丼を置いて帰る人や、「こんなのラーメンじゃない」と言われたり、精神的にも辛かったと語る。そもそも、まだ誰も手掛けたことのない蛤のラーメンは、参考にできるラーメン店がなかった。
「どうしたらいいか考えた時、和食からインスパイアしたラーメンがあるなら、洋食からのアプローチがあってもいいかと。いろんな洋食屋さんに食べに行って、ヒントになるものを見つけては、それを自分なりに合わせてみました」
また、山本さんが得意とする旨味の構成は、この時に舌を磨いて身に着けたものだ。
「例えば、煮干し1個だけとか、食材や分量を変えて出汁をとって舌に記憶させるんです。この出汁とこの出汁を合わせるとどうなるのか、自分の中に記憶させていく、毎日その繰り返しです。それで他の店に食べに行って、どういう食材が入っているのか、うんちく書きを見ないで答え合わせができるようになろうと。そこまでやらないとダメだと思いましたね」
地道な努力の成果が出てきたのは、3年目ぐらいから。ようやく1日50杯くらい売れるようになった。リピーターが増えてきたのもこの頃だ。
ちょうど店名や味を変えて営業する二毛作が流行していた時期。「一汁三にぼし 裏不如帰」として煮干しラーメンを提供し始めたことで、行列もできるようになっていた。『不如帰』は、山本さんが武将好きなところからつけた店名だ。もともと戦国三英傑の性格を味で表そうと、3ブランドの味を作りたいという気持ちがあった。暖簾に「鳴かぬなら鳴かせてみせふ不如帰」とあるように、表(メイン)の蛤のラーメンは豊臣秀吉を表した味だ。「煮干しのラーメンも修業先とは違った自分なりの煮干しを出そうと、それで2年目から裏不如帰を始めたんです」。何かひとつ自分で目標になるものを考えて、そのテーマに沿って常に味を改良してきた山本さん。
「だから、皆さん飽きずに来てくれたと思います。お客さんが並んでくれるって、リアルにお客さんに認めてもらえてる証じゃないですか。ラーメンが認められてきたことで、それまで余裕がなくて行き届かなかった接客も、味も良くて接客も良いほうがいいと思えるようになりました」
路地裏から新宿、そして世界へ羽ばたく不如帰
常連客が増え、行列ができるようになってきた。しかし、山本さんが目指しているのは日本一だった。「思ったほど評価されなかったから焦りはありました。あとから出てきた店がラーメンのランキングで上にいったとか、評価が高いとか、そういうのを見て納得いかなかった」
2014年、店名を『SOBA HOUSE金色不如帰』に改名。その年の年末、世界的グルメガイドのラーメン部門に掲載されたが、またもや山本さんは満足しなかった。
「2番手3番手4番手みたいなところにずっといて、一気に人気になる店が羨ましかった。そこで考え方を変えたんです。一番になったら落ちるだけ。逆にその位置をずっとキープすることって難しいじゃないですか。だから、貪欲に味の改良を考え続けました」
2015年には、現在は封印している、3ブランド目の「金色不如帰 覇」を打ち出した。牛肉出汁の欧風味噌と鶏肉出汁の中華そばという洋食スープと和風出汁を合わせたラーメンだ。
2017年12月には、海外進出も果たす。「ちょうど海外で本気でやってみたいと思っていた、いいタイミングでした」と、カナダのトロントからオファーがきたのは2016年。現地に何度も赴き、食材の調達からすべて手掛けたという。
「海外とのやり取りも、現地での食材の調達も、僕が全部動かないとオープンできないから、死ぬ気で頑張りました」。その甲斐あって、開けてみたら大行列。今ではトロントで一番有名なラーメン屋だ。
世界的グルメガイドに4年連続掲載をキープし続けていた『金色不如帰』が、幡ヶ谷から新宿御苑へ移転したのは2018年5月。「移転の理由は、ずっとやりたかった自家製麺を導入して、0からラーメンが作りたかったからです」。自家製麺にしたことで麺のコストが下がったため、その分を全部スープに投入した。幡ヶ谷では年間4トンだった蛤が、どんどん増えて今では6トンもの使用量だとか。
その2018年の暮、とうとう念願の星を獲得した。「受賞が決まった瞬間、頭が真っ白になりましたね。今まで支えてくれた妻に一番に電話しました。嬉しかったですね。開業後の2008年度から、そのグルメガイドの東京版が発足したので、その時にはもう載りたいと思ってましたから。最初から、日本の一番じゃなくて、世界を目指してました」
本物のラーメンを求めて… 次は海外店舗で天下を獲る!
カナダを初め、香港、上海、シンガポール。次々と海外で成功し、世界的にも認められた『金色不如帰』。しかし、まだ満足はしていないと山本さん。
「今の目標は、海外店舗で星を獲ること。日本のレベルのラーメンを海外で提供するのはなかなか難しいですが、日本人にも美味しいと思ってもらえる、本物のラーメンを提供したいと思ってます」
もちろん国内本店でも、どんどんブラッシュアップし続けるスープとともに、移転してから始めた自家製麺のクオリティが上がっている。
「今年に入って、今までで一番良くなりました。ハルユタカ80%ぐらいで他の小麦粉もブレンドしてますが、その6種類の配合を全て変えてます。粉の配合0.1%ですごく変わるんです。勉強になるし、面白いですね。海外でも日本のクオリティに近いものをもっと出したいです」
生産地にも足を運び、食材を吟味する山本さん。「日本は食材が豊かで、食材に携わっている人の気持ちが違う。だから、生産者の方に喜んでもらいたい、いい食材をできるだけたくさん使いたい」という思いが湧いてくるという。使う食材も現在では80種類以上と、ラーメン屋の常識を超えた食材の数々。
「上を見たら切りがないとよく言うけど、もういいやってなってしまうと、そこで終了だから。どうしたら自分が楽しく仕事をしていけるか、それは何かを成し遂げて成功した時の達成感かな。そのために必死に頑張ってます」。
日本のみならず世界にも認められ、ここまで辿り着いた山本店主が考えるラーメンとは何か?
「僕は、ラーメンは庶民のものだと思ってます。もともと僕らが子供の頃、500円、600円で普通に食べてたものだから、その価格帯に合わせたい気持ちが強いです。高くて食べられない=お客さんが減る=食材が無駄になるわけじゃないですか。そうすると良いものを提供し続けられなくなります。だから、原価をかけてでも食材を回して、お客さんが喜んでもらえる顔を見れればそれでいい」
大変だった、辛いことばかりと、話の中でネガティブな言葉が多い山本さんだが、「創り上げたものは、すべて自分の財産になる。自分で信じるものをずっと創り続けてきてよかった」と、穏やかな顔で語ってくれた。苦しみから辿り着いた栄光には、まだまだ先があるはずだ。
SOBA HOUSE 金色不如帰 新宿御苑本店
東京都新宿区新宿2-4-1 第22宮廷マンション1F
11時~15時、18時30分~21時
土日休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/ptwgqjbfwgjw)をご確認ください。
ラーメンWalkerキッチン
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3-205
04-2968-7786
JR武蔵野線「東所沢」駅徒歩10分
https://ramen.walkerplus.com/kitchen/
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