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埼玉屈指の人気店は「究極の足し算」で味を作り上げている 中華そば専門 とんちぼ(埼玉県・日高市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第14回

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 こんなに楽しそうにラーメンを作る人は初めて見た。「中華そば専門 とんちぼ」店主の丸岡匡太郎さんとは、飲み会でご一緒して以来で、プライベートでも明るい“丸ちゃん”だが、店でラーメンを作る姿は無邪気な子供のように楽しそうで目が離せない。そして時々味見をして、実に美味しそうな顔をする。

店主の丸岡匡太郎さん。一杯一杯、味を確かめては最高の笑顔

 丸岡店主は、行列の絶えない名店「中華そば 多賀野」出身。2008年11月17日に鶴ヶ島で独立し、2017年9月29日に日高に移転している。修業店公認の確かな経歴ながら、とんちぼがラーメンWalkerグランプリのランキングで埼玉トップに躍り出たのが2020年度。鶴ヶ島時代から数えると12年経っていた。

高麗川沿い、のどかな風景の中に駐車場・待ち席完備の店舗

「ラーメン修業は家系ラーメンから入ったんですよ。高田馬場に今は閉店した『ラーメン千代作』っていう家系ラーメン屋さんがあったんですが、大学生の頃に食べてすごく衝撃を受けたんです。もともと母の作る家庭料理が優しい自然な味だったんですね。そこに化学調味料がバキーンって効いた家系を食べて、なんじゃこりゃと。よく分かんなかったんで、どうやって作られているのか知りたかったのと、埼玉に家系ラーメン店がまだなかった時代で、そのラーメンを地元埼玉に持って行きたいと思ったんです。

 結局、学生時代から4年以上働いてる間に、家系以外にもたくさんの種類のラーメンが爆発的に増えていくのを見て、美味しくて大好きだけど家系一本で勝負するのは自分には難しそうだなと。それでもう一軒、自分が一番美味しいと思うラーメン店で修業して30歳までに独立しようと、それが多賀野だったんです。今では独立した弟子が何人もいますが、当時ちょうど何人かの弟子が辞めてしまって、もう弟子はとらないことにしようと思われたところで、『弟子として雇っているわけではないけれど、作り方に関して一切隠したりしないから、全部しっかり見ていきなさい』みたいな感じで。だから、僕のラーメンは多賀野の見様見真似からスタートして、今ではもう全然別物です」

といいつつ丸岡店主の細かな気配りや接客、そこかしこに多賀野イズムを感じる

―今は埼玉屈指の人気店じゃないですか。鶴ヶ島の頃からの常連さんも変わらず来られて。

「鶴ヶ島では、散々納得のいかないものを出したと思うんですけど、皆さんよく来てくださって、本当にありがたいです。それでも、少しずつ美味しくなるように変えていっています。スープは鶴ヶ島開店時に比べたら、昆布の量は約30倍ですかね。昆布の旨味、グルタミン酸が好きなんですよ。それを無化調で出そうと思ったら、昆布をいっぱい入れるという方法しか他に思いつかなくて。多賀野の大将と仕込みは同じにやってるけど、細かいところはすごく違う。大将はどちらかと言うと切れ味重視。今日もTwitterで『いい感じのスープ出来ました!』って写真アップしてたけど、大将はどんどん動物系の旨味の代わりに、魚介類の旨味を増やして切れ味を重視する、引き算のラーメンを作ってるんですね。僕は動物を増やしたら、魚が立たなくなるからその分だけ魚も増やす、足し算のラーメン。というのも、僕が一番好きだった多賀野の味は、賄いで最後に食べる素材が凝縮した味だから。朴訥に足して足して足して……それが、僕が求めるラーメンなんです」

修業先と同じ丼になみなみと注がれた「中華そば」。多賀野の味をとんちぼ流に昇華した一杯

スープは提供時に小鍋で温め、追い煮干し

―足し算を極めたことで、動物系はもちろん煮干しがガツンと効いた無化調とは思えない味ですよね。

「それはゼロから作るんじゃなく、呼び戻しとして前日の煮干しスープを重ねて作ってるんです。メニューは『中華そば』『つけそば』『豚ばらナンコツごはん』の三本柱があって、中華そば・つけそばには両方とも必ず前日の煮干しスープを足して、その日の分が出来ます。だから、ひとつブレると他もブレる。前日の残り具合で追加する量が変わるから、そういうブレも結構ありましたね。非常に作りにくい作り方を、今でもしてます。ただ、今はありがたいことに忙しくなって、翌日に使うスープの量が安定したので、ブレにくくなりました」

つけ汁はベースの魚介豚骨スープを圧力釜で炊いて撹拌し、前日のスープ・つけ汁を追加

「つけそば」。究極の足し算で作り上げた濃厚で複雑な味わい

名物「豚ばらナンコツごはん」。これを作る際の豚出汁もスープに使われる

―稀少な日本酒がお手頃価格で飲めるのも人気のひとつですね。

「日本酒は商売を全く抜きにしてお出ししています。鶴ヶ島の時からですが、而今が好きでお店に置きたかったんですよ。調べたら、どうやら而今は大変希少なお酒で、而今だけでお店の冷蔵庫をいっぱいにするのは難しそうだと。それで今人気になっている日本酒を調べて、一つずつ味をみているうちに、どんどん而今以外にも好きな日本酒が増えていって……今に至ります(笑)。 それが今年からお酒のカレンダーを付け始めたら、年明けからすごい勢いで回転してるんですよ! 利益はないけど、日本酒って回ってくれないと味が変わるので、できるだけ美味しいものを美味しいうちにみんなに飲んでもらったほうがいいから」

―ラーメンも日本酒も回転することで、さらに美味しくいただけると。

「どんな飲食店でもそうだと思うんですけど、食材の鮮度が一番。回転させないと魚だろうが肉だろうが鮮度が落ちてしまいますからね」

店主おススメの「プレミアム日本酒」1杯500円

限定「牡蠣味噌かま玉つけそば」。濃厚な牡蠣味噌で麺を絡めると、酒の肴にも最適

―移転してから麺も自家製麺に変わりましたね。

「鶴ヶ島で開業した頃から、中華そばにはパツンとした歯切れのよい低加水細麺を使いたかったけど、その頃そういう麺は流通してなくて菅野製麺所に作ってもらったんです。つけそばには、中華そばと全然違う麺を使いたかった。ちょうど東京で豚骨魚介が人気がでてきたけど、鶴ヶ島ではつけ麺文化があまり浸透してなかった頃で、他のラーメン屋さんで見たことがないものがいいなと思って、手もみの全粒粉入り麺にしたんです。 移転後は、思い切って自家製麺にしたんですが、鶴ヶ島からの常連さんがきてくださるので、以前の麺を追従するような形で作ってます」

―先日、多賀野さんで中華そばを頂いたら、この麺よりパツンとした麺でした。

「多賀野の大将、また麺を変えたんですよ。最近『銀座 八五』に行かれたそうで、大変美味しかったと言っておりました。富士山の五合目から頂上を目指すという店名の由来を知って、このラーメンで五合目かと。八五がまだ上を目指すラーメンであるのなら、多賀野のラーメンもまだまだ上を目指せるのではないかと、麺から全部作り直したそうです。多賀野は変化し進化し続ける、そこが素晴らしいところですよね」

―丸岡さんの自家製麺にも変化、進化がありましたか?

「進化と呼べるほどでは……まだまだ全然分からないことだらけです。多賀野で修業していた時は自家製麺をやってなかったし、うちが自家製麺になってまだ4年ですから。移転前に、品川に大和製作所のテストキッチンがあるんですけど、こんなに来る人珍しいっていうくらい通いました(笑)。以前の麺をベースに新しい店の麺を作ろうと、そこで相談して、中華そばの麺は北海道産の『春よ恋』100%、つけそばは『春よ恋』に国産小麦のうどん粉(中力粉)をブレンドして、そのレシピからいまだに変わってないですね。 ただ、季節で微妙に変わるというか、気候が変わるから変わらざるを得ない。冬は太く、夏は細くなるので、加水率を1%に満たない範囲で調整しています。菅野製麺所の麺に負けない麺を作らなければならないというプレッシャーと戦いながら、胃が痛い思いもしながらやってます。たぶん店を続ける限りずっと勉強中です!」

日々の仕込みで打ちたての麺を提供。左・2つの麺帯を合わせ1つに圧延。右・中華そばの麺

―そういった試行錯誤の先に、目指しているものは?

「渡辺樹庵さんや磯部優さんのようなラーメンプロデューサーの方々がいらっしゃいますが、あの人たちの強さって“食べて再現する”ですよね。土台の経験値が圧倒的にあるのがすごい強さだと思うんですけど、僕は食べ歩きしてもその技術もない。ただ、いっぱい新しいラーメンを食べてきた土台はある。自分の中の土台として1000軒でも5000軒でも1万軒でも、ラーメンを食べてきてるのが自分の強み。その食べたラーメンの上から10本の中に、自分のラーメンを置きたいんです。それは開店してからずっと思っていたことで、ラーメン本やグルメサイトのランキングとか他者評価じゃなくて、自分の主観で今まで食べた全ラーメンの上から10の中に僕のラーメンを入れたい。それが僕のラーメン屋としての原動力です。なので10本の中に入ってない時は不機嫌です(笑)。あそことあそこと…あそこに負けてるってなると悔しい。

 師匠超えもそうですね。多賀野のご夫婦が二人三脚で創り上げているものを、自分一人で超えるなんて……と挫けそうな僕に、『一番いちばん』の金原店主がおっしゃったんです。“ただ教えられたことをなぞるだけではなく、師匠超えを目指すのは、修業元に対する恩返し”だと。本当にごもっともでございますっていう気持ちで頑張ってます!

 ラーメンを作り始めて20年になっちゃいましたけど、プロフェッショナルになりきれないのも良いところっていうか、ずっと目線は食べ手なんですよね。これからもお客さんが見ている側からラーメン屋を見れたらいいなと思ってます」

とんちぼを始め数多くラーメン店のロゴデザインを手掛ける青木健氏は、自称「日本で一番多賀野を愛している男」。以前、丸岡さんも多賀野愛を語り合い、「いつか絶対青木さんにお仕事を依頼しよう」と心に決めていたのが、移転を機に叶った

「僕の父の出身、佐渡には不思議な霊力を持つ『頓知坊』(タヌキ・ムジナ)というお稲荷さん的信仰があって。『美味しいラーメンでお客様を驚かせたい』という想いを込めてつけました」(丸岡さん)

中華そば専門 とんちぼ(頓知房)
埼玉県日高市栗坪26-46
11:30~14:30
月曜定休

※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/tonchibon)をご確認ください。

大熊美智代 Michiyo Okuma

 ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。

本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna

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