同業者をも唸らせた、日々ブラッシュアップを重ねる一杯 麺響 万蕾(千葉県・松戸市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第6回

2020年06月29日 18時00分更新

 2019年12月20日、松戸市稔台にオープンした「麺響 万蕾(めんきょう ばんらい)」。

 店主・髙野翼さんは、神奈川県藤沢市の名店「RAMEN 渦雷」「麺やBar 渦(一時休店中)」の店主・大西芳実氏を師と仰ぎ修業を積み、間借り営業を経て開業した。

 この店を訪れたのは、名店出身という肩書に惹かれたからではない。この連載にも登場した、千葉で名高い「The Noodles & Saloon Kiriya」の青木店主が記事の中で、「最近いい新店があって、そのラーメン食べたらすごく美味しくて、悔しくなっちゃって。うちのスープを見直したの(笑)」と語った、その新店こそ「麺響 万蕾」だ。

店主・髙野翼さん。修業先の帆前掛けで気合いを入れて営業

「もともとは地元・森下の居酒屋で働いていて、料理もしてたんですね。それが5年前、31歳の夏に、たまたま藤沢の海に友達と遊びに行ったら、台風で海に入れなくて、『近場のラーメン屋に行こうよ』って、行ったのが『RAMEN 渦雷』だったんです。そのラーメンを食べた時の衝撃があまりにもすごすぎて、10日後くらいには江東区から藤沢に引っ越してましたね」

―すごい! いきなり県越えで弟子入り!

「ラーメンを食べて帰宅したら居ても立っても居られなくて、すぐに連絡して面接に行ったんですよ。店主の大西さんに『こっちに引っ越せるのか?』って聞かれて、『はい、もちろんです!』と、その場で一緒に部屋を見に行って、即決です(笑)。途中から本店の『麺やBar 渦』も掛け持ちで、自家製麺も学びました。今は一人で営業していて製麺までは難しいので、製麺所から取り寄せてます」

―店を構えるまでは、間借り営業でしたね。

「本当は都内で店舗を探してたんですけど、なかなか見つからなかった時、たまたま知人がやっている松戸の居酒屋で間借りできることになって。土日の昼だけ『麺屋 GONZO』として営業を始めたら、千葉県のラーメンフリークの方が来てくれるようになったんです。この店が決まった時にも宣伝してくれて、とても助かりましたね」

―あとのお話は、一杯いただいてから。まずは「白醤油らーめん」をお願いします。

―じっくり見せていただくと、スープもきっちり量るんですね。

「これは大西さんからしっかり教わりまして、タレもスープもレードルできっちりと量ってと。今日はチャーシューもきれいどころを用意してます(笑)」

―流石、いつも美しい麺線ですが、きれいなだけじゃなく、麺の食感もほどよくて、啜り心地もいいんですよね。

「麺は醤油・白醤油・味噌と共通で、菅野製麺所の20番。細すぎずパツパツすぎない麺を合わせてます。煮干ラーメンの麺ってパツパツ系が多いじゃないですか。僕は、ある程度の喉ごしも楽しんでほしくて、茹で時間を少し長めにしてます」

美しい麺線も修業先譲り。麺をきれいに整える姿は真剣

「白醤油らーめん」

―久しぶりですが、具なしで“かけ”でもいいくらい美味しい!

「ああ、嬉しいです! 自分が一番押したいのが白醤油だから。間借りしてた時、最初は醤油と味噌の2種類だけだったんですね。毎週お客様が来てくれるようになって、他に何かやりたいなと。でも、塩ダレってあんまりイメージが湧かなくて、スーパーで調味料を見ていたら白醤油があったんですよ。そういえば、大西さんが白醤油を使ってたなあと思い出して。渦雷が煮干と蛤と昆布と椎茸……とか、他にも色々な食材を使ってたんですけど、そこからヒントをもらいましたね」

―修業時代からインスピレーションを受けて生まれたラーメンなんですね。

「そうです。僕は、色んなものが入っているより一つずつが主張しているような、わかりやすい味のラーメンのほうがいいと思って、蜆と煮干を軸に置きました。煮干は脂の少ないもので、セグロ、白口、カマス、鯖、鯵の5種類で調整しながら、今はカマスをちょっと抜いてるのが一番いい感じ。展示会で試飲してすごく美味しかった七福醸造の白醤油に変えたり、他にも少しずつ変えながら、日々ブラッシュアップしています」

「全乗醤油らーめん」。全乗の具は、豚・鶏チャーシュー各2枚、メンマが少し増え、味玉付き

 ―「醤油らーめん」のスープは、白醤油より甘みがありますね。

 「醤油も白醤油と同じ蜆と煮干出汁で、あとは醤油とみりんと酒だけなんですが、なぜか蜆が強く出るんですよ。みりんを入れると甘すぎるような気がして、今は使ったり使わなかったり調整してます」

―「味噌らーめん」も出汁は白醤油、醤油と同じですよね。

「3種類共通の蜆と煮干出汁に、信州味噌を使った味噌ダレを合わせてます。以前より少し甘さ控え目にしたり、味噌の銘柄を変えたり、小さなブラッシュアップをしてきただけで、ほぼオープンから変わらない味です。味噌もリピーターが多く、好きな人は暑くなっても注文されますね」

「味玉味噌らーめん」。蜆と煮干、味噌の旨味に刻み生姜で爽やかな辛味を添えて

「2月から始めた毎週金土日の週替わりの限定も、試作しながら挑戦してます。夏向けに冷やしも始めました。蜆を少し強めにして煮干を合わせ、浅蜊油でコーティングして、通常の麺より一つ太い全粒粉入りの平打ち麺で、具はシンプルにチャーシューとネギだけ。出汁のかけみたいなイメージで作った、醤油の冷やしです」

限定「冷やし蕎麦」

―最近流行の貝出汁ラーメンですが、他店で食べたことがないって言ってましたよね。

「もともとラーメンを食べ歩かないので、流行りのラーメンとか知らなくて。よく『貝ラーメンの●●って店、行った?』って聞かれるんですけど、行ったことないんですよ」

―Kiriyaの青木さんとも仲良くて、てっきりいろんなラーメン店に食べに行ってるのかと

「もともと都内にいて、その後ずっと神奈川にいたんで、千葉のラーメン店は全然知らなくて、本当に申し訳ないんですけどKiriyaさんのことも知らなくて。間借りの時のお客さんに教えてもらって、紹介がてら連れていってもらったのが最初です。他の千葉のラーメン店も、『横の繋がりは大事だから』って、青木さんから紹介してもらったんですよ」

―その青木さんが「白醤油らーめん」を食べて絶賛ですからね。それで自分の店のスープを作り直したという(笑)。

「とんでもない話ですよ。本当に驚いてます。自分のラーメンにそこまで自信があるわけじゃなくて、お客さんの様子とかコメントとか見ながら探り探りやってるような感じなので。千葉県の個人店で一番の店の人がそんな風に言ってくれるなんて、自信にもなるけどプレッシャーのほうが大きいですね。レギュラーにはない塩も限定で出したんですけど、Kiriyaさんの『kiri_soba潮』を食べて、やっぱりレギュラーで出すのはやめようと、一旦封印しました。でも、真似できるところから真似しようと思って、色々な食材を試したりしています。失敗も多いですけどね(笑)。僕は、本当にラーメンを食べ歩いてなかったし、食べても醤油か味噌で、特に塩ラーメンは僕の選択肢にはなかった。最近ですね、時間があると食べ歩くようになったのは。自分のラーメンに生かすためにちゃんと食べて、クオリティを下げずにいいものを作っていきたいと思います」

―食べ歩きがラーメンのブラッシュアップに繋がってるんですね。食材も少しずつ変わってますか?

「だいぶ変えましたね。オープンの時からチャーシューは3回ぐらい変わってます。今は大山鶏のムネ肉を、豚は国産の豚モモ肉から色々変えて今は三元豚。動物系を使ってない、完全に煮干と貝だけのスープなんで、少し豚の脂が溶け出してほしいから、豚の脂身が多いものを使ってます」

―確かに、特製と通常のトッピングではスープの味が変わりますね。

「そう、特製で肉が増えると、醤油は余計甘く感じると思います。チャーシューは低温調理で温度帯と時間のいいところを見つけられて、すごくよくなってきました。このチャーシューをあてに、夜はお酒も飲めるようにしたいですね。券売機のビンビールの横にハイボールとレモンハイ、炊き込みご飯の下には300円おつまみも置く予定です」

限定「貝らーめん(蛤×蜆×浅利)」の際の和え玉。貝タレに極細麺。通常の和え玉も煮干油やネギ油と日によって変わる

―おつまみも! もともと飲食店からラーメン店へ転職ですものね。

「渦雷の時からあるもので作るように言われて、鶏皮ポン酢とか、ネギとチャーシュー辛味噌和えとか。おつまみメニューも設定しないで、どんなものを食べたいかお客さんに聞いて、肉だったら肉物でさっと作ったり。今は手が回らなくてできてないけど、いずれは。あと、券売機の味噌らーめんの下は、常に濃厚煮干らーめんを置こうと思ってます」

―そういえば4、5月限定の濃厚煮干、残念ながら逃しました。

「ちょうど烏賊煮干の時期がKiriyaさんと被ったことがあって、青木さんに『じゃあコラボっぽくしてsquidってつけていいですか?』って聞いたら、『いいよ』って言ってくれて。Kiriyaさんが『濃厚イカ煮干 squid_conc.』、うちは『煮干らーめん(squid)』、評判もよかったです」

―評判になると行列になりそう! でも、この時期、ワンオペだと行列は厳しいですね。

「そんなに行列になるほど来ないんで、大丈夫です(笑)。満席の時は後ろの待ち席にスペースを空けながら座ってもらって、多い日でもちょっと外で待ってもらうくらい。今は、ソーシャルディスタンスを保って2名の場合は並びで、1席空けて座ってもらってます」

手前に5席、奥に2席のL字カウンター席

―もともと都内で店舗を探してたって話ですが、この先は都内進出も考えてる?

「長男なんで、いずれは何十年後とかでも実家近くの森下でやりたいなあと思ってます。まあ、ここでちゃんと生活できて結婚できて子供を養えればいいんですけどね」

―じゃあ、ここから発展して2店舗目とか?

「仕事を誰かに任せてというのは無理ですね。やっぱり自分でやりたいんですよ。まだ、人に教えられることもないですし、これからもっとがんばります!」

麺響 万蕾

 千葉県松戸市稔台1-1-17
 火~土 11:30〜14:30 18:00~21:00
 日 11:30~14:30
 月曜定休

 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業・材料切れ終了・限定情報など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。

大熊美智代 Michiyo Okuma

 ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。

本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna

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