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有名店の3代目は、試行錯誤を繰り返して味を守り続ける ラー麺専門店 こしがや(埼玉県・越谷市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第9回

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 1999年創業、「ラー麺専門店 こしがや」初代・倉林博史店主は、「支那そばや」創業者の佐野実氏のもとで修業した直弟子。越谷を代表する名店として長く近隣の方々や支那そばやファンから愛されてきた。その初代が引退したのは2016年4月30日、17年間のラーメン道を終え、2代目・帆風大輔氏が翌5月1日から跡を継いだ。そして4年後、コロナ禍のなか、2020年4月1日から「こしがや」を譲り受けた、3代目・伊澤雄太氏が厨房に立っていた。

「ラー麺専門店 こしがや」3代目・伊澤雄太店主

―来てびっくり! よく見ると店主さんが若くなってる(笑)。

「初代とはお会いしたこともなくて、倉林さん、博史さんって言うんですね。今お名前を知りました(笑)。受け継ぐ時に2代目の帆風さんから伺ったのは、初代は重機メーカーの小松製作所を55歳で早期退職されて、『2回目の人生はラーメンに捧げたい』ということで佐野実さんのもとで修業をして、この店を立ち上げたと。それで2016年4月に72歳で引退されたのは、たぶん体力的な問題で。麺を一回分打つと20kgになるんですけど、それを持ち上げるのがきつくなったんでしょう。この味を守り抜く人に託したいという話で、そのとき帆風さんは名古屋でラーメン屋をしてたんですけど、そこは冷凍スープで炊き上げる感じだったんで、ちゃんと炊き出しができるようになりたいと思っていたところで。それがたまたま繋がって、初代が引退されて2代目にお店を売却されたそうです」

―「こしがや」という名前も味もお店とともに、引き継がれたんですね。

「はい、引継ぎは口伝だったそうで、それが1カ月くらい。あと2カ月ほど倉林さんがちょっと見に来るみたいな。ただ初代も職人なんで、感覚的なものを伝えられたわけなんです。要は『火の感じはこれ』みたいな。それって天気や気温、湿度とかで、全然変わるじゃないですか。帆風さんに聞いた話では、最初の半年間ぐらい眠れないぐらい地獄だったと。お客さんからは味が違うって言われるし。まあ自分もそうなんですけど(笑)」

上・初代の塩ネギラーメンとラーメン、下・2代目の塩ネギラーメンとワンタンメン

―最初は大変ですよね。でも2代目も徐々に評判よくなって、満席で待つことも多かったです。さらに伊澤さんが3代目を継いで。もともとラーメン店で働いていたんですか?

「僕、ラーメンにたどり着くまで長いですよ(笑)。飲食業だと、同級生の父親が輸入ナチュラルチーズの卸売業で、学生の頃アルバイトしてたんです。ナチュラルチーズって高価で頻繁には買わないし、『この間の美味しかったよ』って言われても、日々熟成していくので同じもんってないんです。アルバイトだけど会社の力になりたくて、チーズってチーズケーキにしたら食べるんじゃないかと思って、『Eggs'n Things』っていうパンケーキ屋に行ったんですよ。それが26歳の時です。すごく流行った時期で、みんながチームになって働くのが楽しくて、いつの間にか社員になって、上の立場になっていたんです。ただ、独立したいっていう目標があったので、そこは5年くらいいて31歳で退職しました。そこから飲食業でもう少しスキルアップを考えて、『越後屋』っていう会社のファストフードパスタに入って、いろんな店舗に行き、最後に業務委託で用賀の『煮干し中華そば 亘』でやっとラーメンにたどり着くわけです。約6坪の狭い店で、淡麗だけ自分たちで炊き上げてたんですけど、セントラルキッチンじゃなく初めて一から作って、業者さんと仲良くなっていろんなことがわかってくることが楽しかったのかな。そんな経験から独立を考えた時、ラーメンをやりたくなったわけですよ。でも居抜きで都内の物件を探しても、全然見つからなくて。ダメ元で取引先の乾物屋さんに店主がご高齢で引退するとか、そんな話ないですかって聞いたら、たまたま『こしがや』で探していて、紹介して頂いたんです。2代目の帆風さんは家庭の事情で都内の自宅と越谷の店の二重生活がしんどくなってた時期で。ラーメン屋は朝早くから夜遅くまでで週1休みだけですからね。今までいたスタッフが辞めたタイミングで、人を探していたところに、ちょうど僕が」

―独立してやりたかったのは、直近の煮干しじゃなく、オーソドックスなラーメンだった?

「その時、どういうラーメンをやりたいんですかと聞かれて、自分の中であまり意識なかったんですけど、漠然と淡麗系をやりたいと。生まれが杉並の浜田山で、近所の『たんたん亭』で昔から食べてたラーメンが頭にあったかな。そこがぴったり合ったんでしょうね。帆風さんにお会いして、2019年7月から研修して、正式に契約したのが今年の4月からです」

以前と変わらず、厨房が見渡せるオープンキッチン

初代から3代に亘って20年以上使われてきた製麺機

―お店のTwitterが上がったのが4月だから、そうかなと。代が変わっても店内も機材も同じままですね。

「機材・備品、レシピも譲り受けたけど、初代から2代目に伝えられたのが口伝だから、分量もやり方も変えてないけど、ちょっとした差異で変わるんです。レシピは初代のものだけど、僕は2代目しか知らないから、実際の初代の味がわからない。同じレシピでどうなったらこうなるのか、悩みながら繰り返して、今も掴みかけたり、ほろっと落ちたり。その中で、自分の感覚を頼りに、試行錯誤しながらやってます」

受け継がれていく変わらぬこだわり

―スープはもちろん、麺も自家製麺で、すべて一から作りますからね。

「スープのほうが大変ですけど、最初、麺も難しかったです。2代目も代替わりした時、進化させたかったのか、麺を少し変えてるんですね。僕は、初代の麺のレシピも持ってるんだけど、やったことがないから、製粉屋さんに相談したんですよ。4月に自分が3代目を継いだら、初代のレシピで麺を作りたいと。土台がないから教えてほしいっていう話をしたんです。最初はうまくできなくて、2代目の麺で走ってたんですけど、ある時、これかなあというような麺ができたんですよ。ラーメンって一杯の食べ始めと食べ終わりが大事だと思ってて。食べるのが早い人はいいんですよ。うちのお客さんはおじいちゃんおばあちゃんが多いんで、そうするとオーバーボイルしてないのに食べ始めと食べ終わりで麺の柔らかさが変わっていくかなと。個人的な好みですけど、初代のレシピでやってみて自分の中で一番しっくりきたんです。だから麺は初代に戻しました」

初代のレシピに戻した麺

―初代の味を知ってる人には、麺が戻ったのがわかるんじゃないですか。

「変えるか変えないかもすごい悩んだんですよ。2代目の麺が好きで来てくださってた人にも申し訳ないと思ってるし、変えるっていうことがどういうことかもわかってます。ちょうどコロナ禍で一番影響が少ないし、4月からが自分のスタートだから自分の舌を信じて、何も言わずにあるタイミングで変えたんです。そうしたら『麺変えました? マスター』って言われて。言われたの3人だけですが、3人いるってすごくないですか? 麺の残しもほんと少なくなりましたし、僕自身も麺は美味しくなったと思ってます」

―気づいてくれる人がいるって、嬉しいですね。スープはどうですか?

「看板の塩がどういう感じだったのか、ちょっと悩んでいて。塩角が立つときと立たないときがあるんですよ。2代目は立つほうが多い。全体的にしっかりしてるというか。初代からのお客さんも来られるけど、自分は初代のラーメンを食べたことがないから。レシピはそのままだけど、やっぱり多少の変化があって、それを感じながらお客さんのスープの飲み残しとか見ながらやってます。塩角が立たないっていうかマイルドな方向にもっていくとスープの完飲率が上がるんですけど、そうすると味として弱いと思う人もいるかなと。味をちょっと強めに仕上げたほうがスープの完飲率は落ちるけど、味がピリッと決まるんですよね」

塩ネギワンタンメン

―ちょっとマイルドなほうが初代の味なのかもしれないですね。“支那そばや愛”の深いKiriyaさんがこの味だって言ってましたから(笑)。でも、醤油は2代目になって美味しくなりましたよね。

「醤油はね、作り方が変わってます。醤油は塩を炊きだした時の一番の上澄みのスープを最後に足して焚き上げてるんです。さらに前日の残りの醤油スープも足してるから、醤油しか食べない人には絶対わかってると思います。確かに2代目の醤油は美味しいんですよ。自分はまだまだで、あと香りが足りないんですよね……。今、自分が一番意識してるのは、余韻です。帰っていくお客さんが、余韻まで楽しめるように。それを一番意識して作ってます。でも、本当は醤油も初代の味を知りたいんですよ」

ラーメン(醤油味)

―じゃあ、その味を求めて支那そばや系に食べに行った?

「『支那そばや』は本店に行きました。あと美味しかったのは、神保町の黒須さん、覆麺さん。Kiriyaさんもお店に変わらず来てくださっててTwitterでも繋がったし、行きたいんですけど、定休日が同じで行けないんですよ」

―今「こしがや」の味を守りつつ、3代目が目指すところは?

「昨年の7月からお店に入って、今やっと見えてきたところかな。スープでも麺でも、それは業者さんと打ち合わせして話がつながってくるわけですよ。最終的にはお客さんに来てもらって『美味しかったよ』って言ってもらうのが一個のゴールじゃないですか。ただ、全部手作りだから、やっぱりブレるわけですよ。ブレることも楽しめるように、それを糧にして、どうやったらそうなるのかってところを積み重ねていきたい。ラーメンが好きで、情熱があるってことが大事かなと。それは一緒に働く人にも言えること。今は2代目の頃からいるパートのおばあちゃんとずっと二人でやってます」

―ちなみに初代はどうされてるんでしょうね。2代目に変わった頃は、毎日図書館に通ってますよって話でしたが(笑)。

「噂ではシンガポールとかタイとか、海外に移住したって聞きますね。でも、最近帰ってきたっていう話もあって、どれが本当かわからないんですよ。初代にはお会いしたことがないので、逆にご存知の方がいたら教えてください(笑)。会えたら伝えたいですね。味は守り続けます! 今は僕の想像の初代の味ですが、もっと近づけるようにがんばります!」

ラー麺専門店 こしがや

埼玉県越谷市越ヶ谷1-12-19
11:00~15:00 18:00~21:00
木曜定休

※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。

大熊美智代 Michiyo Okuma

 ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。

本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna

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