今回紹介するのは、多摩地区のラーメン界を牽引してきた1店であり、今もなお進化し続けている八王子の人気店「らーめん 楓」。
「八王子ラーメン」というご当地ラーメンがある土地柄、新規参入するのは難しいと言われていた中、当時「ニューウェーブ系ラーメン」と呼ばれていた新しい波を連れてきたパイオニア的存在で、現在は八王子を代表するお店となっています。
店主の井ノ川さんは、大学卒業後に当時「日本一のラーメン屋」と呼ばれていた「麺屋武蔵」の門を叩き、修業元の「麺屋武蔵」や尊敬する「中村屋」の店主・中村さんに憧れて「日本一のラーメン屋になる!」という思いで独立し、2003年12月に24歳の若さで八王子に「らーめん 楓」をオープンさせました。
店名の「楓」は、ご主人の好きなロックバンド「スピッツ」の名曲「楓」から取ったもので、「スピッツのメンバーに私のラーメンを食べていただくことが夢です」と夢を語ってくれました。
今でこそ不動の人気を誇るお店となっていますが、ここまで来るのには順風満帆だった訳ではなく、沢山の失敗を重ね、試行錯誤の日々がありました。
2003年に「らーめん 楓」を作り、勢いのまま2006年6月に「らーめん 隼」を出店。
濃厚な味噌ラーメンにマー油をかけ、揚げたての唐揚げをトッピングする新しいスタイルの味噌ラーメンを提供するお店でしたが、数年で閉店。
2010年11月には立川に「らーめん 花鳥風月」を出店。 藻塩を用いた魚貝の旨味を力強く感じる清湯系ラーメンを提供するお店でしたが、程なく閉店。
私個人の見解ですが、かなりのクオリティを持ったラーメンでありながらも、濃厚系が遅れて流行り出した立川という立地では早すぎるラーメンだったのでは無いかと。これが新宿など都心での出店だったら爆発的なヒットもあったのでは無いかと思いますが、タラレバな話で結果が全ての厳しい世界です。
「隼」は後に「らーめん 楓 KOYASU」とリニューアルするも、こちらも長くは続かずに閉店してしまいました。
立て続けに閉店となりましたが、それを無駄にせず「失敗」としっかり受け止め、糧として次に繋がるものにしていくのがご主人の素晴らしいところ。
2店舗の失敗を受け、「楓」という1つのお店で1から修業し直すつもりで勉強し、「何のためにラーメンを作るのか?」という事を自問自答し、「関わる全ての人の笑顔の為にラーメンを作る」という志を立て、40歳になる直前の2019年8月には「株式会社スープ&スマイル」を設立。
「作る側のスタッフも、食べに来てくださるお客様にも笑顔になっていただく」という事を念頭に置き、単純に美味しいラーメンを作るだけでは無くスタッフの成長を助け、働く幸せを感じて貰う事で自然と作られる笑顔のサービスが実現でき、そのサービスによってお客様も笑顔でまた食べに来て貰えるという「笑顔」の連鎖が生まれると考えているとの事。
ご主人の「笑顔」に対しての思いのお話は凄く頷けるもので、オープン当初からその明るい自然な笑顔の接客で居心地の良い雰囲気を作られ、一般的なお店では「いらっしゃいませ」というところを「こんにちは♪」と出迎えてくれるので、昔馴染みのお店のような感覚を持て、客側としても自然と笑顔でお店に向かい、笑顔でラーメンを食べる事が出来ます。
現在は卒業されてしまいましたが、「スマイルマネージャー」という役職の女性店員さんは正にその象徴で、間違いなくその笑顔によってリピーターになったお客さんは多数居ます。
そして、ご主人はその「笑顔の輪」を更に広げていく為に、今春に新店舗の出店を予定しているとの事!
新店舗は「楓」の延長線上の構想で、2019年の16周年で提供した「最強の鴨中華そば」をベースにしたちょっと高級志向のラーメンとサービスを提供するお店にする予定で、その為に2020年の4月に「楓」のメニューをリニューアルしたとの事。
既存の「楓」も新店も、どちらの店舗も無化調で親しみやすいお店でありながらも、価格帯や雰囲気で差別化を図り、お客様の選択肢を増やせるようにしたいとの構想で、更に新店舗にはセントラルキッチン、ラボ、オフィスを併設し、今後の展開の為の機能を備えようとも考えているとの事で、ファンとしては話を聞くだけでもワクワクしてきます!
では、その「楓」のラーメンの歴史を振り返りながら紹介させていただきたいと思います。
試行錯誤を繰り返し、日々進化を重ね続けているお店なので、細かな味の変化は常にありますが、大きなリニューアルが2010年・2018年・2020年と過去3回あり、メニューや味わいを変化させてきました。
「楓」のフラッグシップメニューも初期から現在で大きく変化し、オープン当初は当時多摩地区でも提供しているお店が少なかった「濃厚豚骨魚介ラーメン」で、しかもそれを無化調で作り上げたという凄いインパクトとキレを持ったものでした。
2018年のリニューアルで、長きに渡り中核を担っていた豚骨魚介から離れ、「楓」の文字もメニューから抜き、全く新しい清湯系の「醤油らーめん」をメインに据え、他のメニューもフルチェンジして新しい「らーめん 楓」がスタートしました。
2020年4月には、前述の通り新店の構想を見据えた上で全メニューをリニューアルし、価格をグッと抑えた構成に。 安くしたからと言ってチープになった訳では無く、味もファンが納得出来るものを提供し、一度は封印した豚骨豚骨も復活しました!
現在のラーメンは、真昆布・羅臼昆布・鰹節・鯖節・椎茸・片口イワシ・平子イワシ・焼きあご・比内地鶏・黒さつま鶏・丹波黒鶏・豚などの食材を使用し、「中華そばスープ」「豚骨魚介スープ」「煮干しスープ」「地鶏スープ」の4種類を用意した無化調のもの。2008年から自家製麺している麺には、北海道産小麦粉「春よ恋 生一本」を使用し、スープに合わせて石臼で挽いた全粒粉や奥久慈卵を混ぜ込み、加水率を調整し太さも変えているとの事。
「楓の中華そば」は、節系の風味高く、優しく広がる魚介系の旨味に醤油の風味高さも合わさった「日本蕎麦」を思わすような純和風な出汁感に、鶏油のコクが合わさったバランスの良い一杯!
地鶏のふくよかな味や風味を存分に感じられる、出汁の旨味を存分に楽しめる塩味のラーメン!
魚介が強く主張しながらも濃厚な豚骨のコクと旨味が後からやってくる、濃厚かつ和を感じるキレのある一杯!
閉店した「隼」の味噌ラーメンは形を少しずつ変え、現在も「味噌らーめん」としてその味を継承し、人気だった「からあげ」は「楓」でも提供して人気メニューとなっています。
煮干し感をストレートに感じさせながらクセが無く、厚みのある旨味を楽しめる塩ラーメンで、麺とスープとのマッチングなどのトータルバランスが最高の一杯!
今でこそ「限定ラーメン」を提供するのが当たり前のようになっていますが、15年前はまだ限定ラーメンを出すお店は多くなく、その走りでもあり多種多様な限定ラーメンを提供しています。閉店した「花鳥風月」のラーメンも、進化させた形で2017年に「復刻・鶏と貝出汁のらーめん」として限定提供されました。
15年以上の間に数々の限定ラーメンを提供し、私自身も沢山頂いてきたのですが、さすがに全部を紹介出来ないので、最近最も印象に残った一杯である「つぐみの鶏そば」を。
こちらは、昨年12月に迎えた17周年を記念して作られた限定メニュー。2019年に「地鶏と魚介出汁」をテーマにした二毛作ブランドとして、定休日を利用して営業していた「つぐみ」の上質な地鶏スープと、「楓」出身で激戦区高円寺でもトップクラスの人気を誇る「山と樹」の特製手揉み麺を合わせた、ここでしか食べられないコラボラーメンが感動レベルの美味しさでした。
「楓」のラーメンは全て店主の井ノ川さん考案のレシピの元、仕込みは十数年来の相棒だという仕込み責任者の方が務め、2020年のリニューアルより若き店長が現場責任者としてお客様に届けるという「チーム」として一つのラーメンを作り出すものですが、月曜日のゲリラ限定に関しては若き店長のセンスで作りあげているとの事で、こちらも注目!
メニューバリエーションが豊富で老若男女問わず楽しめ、スタッフもお客さんもお店の中に居る全ての人が笑顔で気持ち良くラーメンを食べられる、そんな雰囲気を楽しめるオススメのお店です!
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/ramenkaede)をご確認ください。
ZATSU
2006年に開設したブログ「ZATSUのラーメン」の管理人。武蔵野・多摩地区を中心にしたラーメン食べ歩きを始めて15年以上。現在は年間400〜500杯程度を食べ、新店コレクターでありながらも老舗店やリピートするお店も多数あり。チェーン店からファミレス、カップ麺までも愛する真性の「ラーメン好き」で、基本的に何でも美味しく食べられる幸せ者。「自分の好みのラーメンを見つけて欲しい」と言う思いをモットーに色々なラーメンを紹介していきます。
本人ブログ(https://zatsu-ke.blog.jp/)
本人Twitter @zatsu_ke
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