ラーメンの味のスタイルも様々なら、ラーメン職人のスタイルも様々。ひとつの味を追い求めていく人もいれば、色々な味を繰り出してくる人もいる。今回紹介するのは、東京で15年間、人気ラーメン店主としてキャリアを重ねている蓮沼司(はすぬま つかさ)さん。
新潟県で育った蓮沼青年が調理師専門学校で学び、東京で飲食業の経験を重ねてからラーメンの世界に。2005年に幡ヶ谷で店主として独立したが、最初の味では人気を得られず。2006年に考案した「鯛だしとんこつ」でブレイク。その時名付けた「我武者羅」の店名が、今に続くことになる。
新潟県には多くのご当地ラーメンがある。その味を東京でも食べたいという声を聞いた蓮沼店主は、休みの度に故郷の新潟へ戻り味を研究。2007年には新潟市の「濃厚味噌」、2009年には燕市の「背脂煮干」、2012年には長岡市の「生姜醤油」をメニュー化。現在は、幡ヶ谷と代々木で「生姜醤油」を基本とし、背脂を加えた新作も提供している。
そんな蓮沼店主が、「背脂煮干中華そば 我武者羅 初台店」を開店させた。また、幡ヶ谷で営業していた「心や」も、「背脂煮干中華そば 我武者羅 幡ヶ谷店」にリニューアル。
澄んだスープには煮干しをたっぷり加え、たっぷりの背脂を振りかけた一杯。燕市生まれで「燕三条系」とも呼ばれる味を10年以上作ってきた蓮沼店主だが、今回大きくブラッシュアップさせた。
中華そばにものっている「もみ海苔」をドーンと増したメニューがこちら。香ばしい煮干出汁を加えたスープには背脂がびっしりと浮かび、海苔を沈める事で味の変化も楽しめる。そして、何より驚かされるのは、そこに入った太麺!
製麺所に常に要望し続けていた「超多加水麺」。多加水麺はまとまりづらくなり、難易度がアップする。加水率40%程度でも「多加水麺」とされるが、今回は50%を越える「超多加水麺」。こうなると製麺所が最後に行なう「一人前の分量を玉に丸めてまとめる」工程で麺がくっついてしまう為、切り出した状態で納品されているという。
この麺を啜ると、これまでの「ツルツル」「シコシコ」「モチモチ」といった擬音では表現できない、全く新しい食感が口の中に広がる。敢えて文字化するなら「モッチュトゥルン」だろうか。
背脂の下には、豚の前足にある「ウデ肉」を使い、しっかりした旨みを引き出したチャーシューも隠れている。
ここまで個性的な麺なら、つけ麺でも味わいたくなるのは自然な流れ。超多加水麺を背脂煮干のつけ汁に少しずつ浸けていき、麺にじんわりと伝わる旨みを実感できる。花削りした鯖節や細ネギの存在感がアクセントになってくれる。
サイドメニューは王道の餃子だが、もち豚の味がギュッと締まっている。小皿には黒胡椒と生姜が入り、卓上の生姜酢を加えて食べる。その手が止まらなくなる一品。
蓮沼店主は様々な味を繰り出してきた一方で、常に看板メニューを磨き上げてきた。今までの味も素晴らしかったが、リニューアルされた味は、超多加水麺が絡んできて「背脂煮干ラーメンの決定版」と呼べる一杯だと思う。この新味を是非啜り上げてほしい。
山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)
2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @rawota
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