会合の席で名刺を交換すると、「ラーメン評論家」の肩書に皆さん驚く。そして多くの人が「オススメのラーメンを教えてください」と訊いてくる。これにはいつも悩まされる。初めて会った人なので味の好みはわからない。そこで「どんなラーメンを食べたいですか?」と訊いて絞り込もうとするのだけど、多くの人が「普通のラーメン」と言われてしまう。その人の「普通」を推測するのは難しい。でも、そんな時にも答える事にしているラーメン店がある。御茶ノ水駅から聖橋を渡り、蔵前橋通り沿いにある「ラーメン大至」がそれである。
この店は、他のラーメン店で学んだご主人が2007年に創業。ビル建替による1年間の休業を挟みつつ、今も同じ場所で営業中。何よりも注目に値するのは、個性を磨くご主人が多い東京のラーメン店の中にあって、「普通のラーメンの最高峰」を目標に掲げているという点である。
そんな大至の基本メニュー「ラーメン」。ほうれん草やナルトといった具も加わり、オーソドックスな東京ラーメンのスタイルを表現している。
スープは、丸鶏と豚骨を使った動物系スープと、昆布・椎茸・鰹節などの乾物系スープを営業前にあわせたダブルスープ。それぞれの旨みを活かしながら、全体にバランスが取れたまろやかな味になっている。
「浅草開化楼」で製麺を担当する不死鳥カラス氏が、日清製粉とコラボして作った準強力粉「傾奇者」を使った細麺を丁寧に茹でていて、スープと滑らかに調和している。
大至のメニューには「担々麺」もあるが、そこに「背脂仕立て」と書いてあるのが珍しい。芝麻醤や胡麻は使わず、たっぷりの背脂をメインにラー油を加え、独特な食感を楽しめる一杯になっている。
大至は季節ごとに様々な限定メニューを繰り出す事でもファンを喜ばせている。各メニューの提供期間は短めなので、お店のSNSで事前に確認してください。夏は「冷やし中華」を始め、冷やしつけ麺や冷麺などが登場。
冬は、挽肉や野菜ペーストを加えた味噌ダレがスープに入った味噌ラーメン。生唐辛子を練り込んだバターが乗る「辛味噌ラーメン」も人気。
そして春は、「細つけ麺乱打」を開催。「納豆」や「カルボナーラ」など、一風変わったつけ麺が、細麺で様々に楽しめる。
これらの限定メニューで学んだ食材や調理法を、レギュラーメニューである「ラーメン」の味作りにフィードバックされる事もあるという。味の向上を続ける姿勢は、「最高峰を目指す普通のラーメン」にも通底されている。
「普通のラーメンを食べたい」という方に、まずオススメしたいのは、大至の「ラーメン」だ。
山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)
2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @rawota
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