伝統にあぐらをかかない久留米の精神をつけ麺で表す ラーメン龍の家 新宿小滝橋通り店

2020年06月11日 12時00分更新

 かつては九州の味だった「とんこつラーメン」が、今や全国を席巻している。その発祥は福岡県久留米市。1947年に開業した「三九」が、豚骨を煮込む際の火力を間違えて白濁スープが誕生したというエピソードが知られている。

 しかし、私はこの「うっかり誕生説」には若干の謙遜が含まれていると考える。久留米初のラーメン店で「三九」とも交流があった「南京千両」店主は、中華料理店「光華楼」でチャンポンの製造工程を見て白濁スープのヒントを得たという。当時のラーメンに使われていた豚骨の量は多くなく、より深みのある味を求め、「三九」も強火で炊きだす方法にたどり着いたのではないだろうか。久留米ラーメンの濃厚なスープを味わう時、そんな思いを抱いている。

 今回紹介する「龍の家」は久留米で1999年に創業したラーメン店だが、純粋な「久留米ラーメン」ではない。創業メンバーが博多の「一風堂」で修業。久留米ラーメンで主流の「呼び戻し」ではなく、その日のスープを使いきる「とり切り」スタイルで営業している点などに違いがある。

 創業後にも味の改良を重ね、現在は福岡県・熊本県・東京都に10店舗を構えている。

「ラーメン龍の家 新宿小滝橋通り店」

 新宿駅西口から延びる小滝橋通り沿いは、1998年開店の「麺屋武蔵」が大行列を作った後、多くのラーメン店が出店した。「龍の家」は2009年開店。開店以来11年、激戦区の中でも行列を作る人気を保っている。

「とんこつ こく味」(850円)

 「龍の家」のラーメンは、とんこつベースの「こく味」と「純味」の2種類。修業した一風堂の「赤丸新味」「白丸元味」になぞらえたようにも見えるが、学んだ味をベースにしつつも独自の濃厚スープへと発展している。「こく味」では黒いマー油が加わり、細ストレート麺を勢いよく啜らせる。

「つけ麺 もつ」(900円)

 そして、「龍の家」の都内2店舗では、メニューにつけ麺が加えられている。とんこつスープのラーメン店でも、つけ麺では食べやすくする為に魚介出汁や魚粉を加えるケースが多い。「龍の家」はそれらと異なり、とんこつスープに焦がし醤油をプラス。その香ばしさと適度なざらつきが、中太麺に絡んで食感に魅力をプラスしている。つけ汁の中にゴロゴロと入ったモツの食感も楽しめる。

つけ麺は「粥割り」で締め!

 つけ麺は、麺を食べ終わった後の「スープ割り」が一般的だが、龍の家は「粥割り」を用意。とろみが加わり、とんこつ+焦がし醤油味のつけ汁に粥が加わる事で、最後まで心地よく食べられる。

 とんこつ白濁スープを生み出した久留米の先達を見習ってか、個性ある濃厚スープを作り、つけ麺でも既成概念の一歩先行くスタイルを生み出した。伝統にあぐらをかかない進取の精神は、「龍の家」の味にも貫かれているのではないだろうか。

山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)

2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @rawota

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