渋谷の“守護神”は若者から年配まで愛される味 中華飯店 喜楽(東京・渋谷)

2020年06月04日 12時00分更新

 最近では独学や和食、西洋料理の影響を受けたものもある「ラーメン」だが、その主なルーツは中華料理にある。日本各地で様々なラーメンの形が生まれたように、広い中国でも土地によって様々な麺料理が存在している。

 太平洋戦争を経て、敗戦と共に日本に引き揚げてきた者がいる一方で、故郷から日本に働きに来ていた者もいた。そのような人たちの中には、ラーメンの歴史に名を残した者もいる。前者には、味噌ラーメンを考案した「味の三平」創業者の大宮守人氏(元満鉄の機関士)、後者では尾道で「朱華園」を開店させた朱阿俊氏(台湾出身)がいる。

 終戦直後、大田区中央に「喜楽大飯店」という中華料理店が開業し、1970年代くらいまで営業していたと言われている。創業者は台湾出身で、同郷出身者を中心に、ここで修業した人が次々と独立して店を構えていった。そのうちの1軒が、1952年に創業した、渋谷の「中華飯店 喜楽」である。

店舗は、平成になった頃にビルに建て替えられた

 渋谷駅から道玄坂を上り、「しぶや百軒店」を入った所に店を構えている。行列ができている事が多いが、驚くのはそこに並ぶ人達の世代。若者からベテラン世代まで幅広く、渋谷に集う人たちに愛され続けてきた店である事を実感する。

「中華麺」(700円)

 動物系を感じるが、それに負けない醤油の香りが漂うスープ。厚みもある平打ち麺は啜るごとに口の中で存在感を発揮してくれる。具ではまず、たっぷり乗ったモヤシが食感をリフレッシュさせ、醤油ダレで味付けしたチャーシューと玉子は、麺やスープと共に一体感を発揮。半熟の味付玉子が主流になった今でも、固ゆでを守っているのも嬉しい。

 そして、このラーメンを形づくるのはスープにたっぷり入った「焦がしネギ」。その食感が生み出す香ばしさや、油によるこってり感などが、渋谷の名店としての後味を表現している。このスタイルは、「喜楽大飯店」から受け継いだものと言われている。「喜楽」は縁起の良い言葉で同名店は少なくないが、大森駅前に店を構える「中華料理 喜楽」は、創業者が共に台湾から東京に来て、「喜楽大飯店」の門を叩いた、いわば「兄弟弟子」だったらしい。今ではどちらも代替わりして互いに面識はなく、ラーメンに入った揚げネギがその由来を静かに語っている。また、1956年に創業した大井町の「永楽」も「喜楽大飯店」出身。こちらでは黒い焦がしネギがたっぷり乗ったラーメンが特徴で、やはりその繋がりを感じさせる味を楽しめる。

「焼餃子」(500円)

 軽いつまみメニューも用意されているので、ついついビールを頼んでしまう。そこに付けたいのは「焼餃子」。もっちりした皮が香ばしく焼き上げられていて、頬張ればしっかり入った肉の存在感が楽しめる。

 再開発がひたすらに続いている渋谷。この百軒店周辺も、店の入れ替わりが激しい。そんな中にあっても、「喜楽」は渋谷の守護神がごとく、今もその味を街に香らせている。

山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)

2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @rawota

この記事をシェアしよう

ラーメンWalkerの最新情報を購読しよう

PAGE
TOP