味も食材も常にレベルアップしていく、妥協なき気鋭店 カネキッチンヌードル(東京・東長崎)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第7回

2020年07月12日 12時00分更新

 2016年12月12日にオープンし、2018年、2019年と2年連続、国内ミシュランガイドでビブグルマンを獲得した「カネキッチンヌードル」。店主の金田広伸さんは、「つけめん さなだ」瀨戸口店主の「六厘舎」時代の後輩で、瀨戸口店主始め、名店店主との交流も深い。開業前から独立を目指し、ラーメンを食べ歩いていたので、その頃知り合った私にとっては、未だにラーメンフリークの“カネヤン”という印象が強い。

店主の金田広伸さん。頭上にはミシュラン・ビブグルマンの証

―飲食店の仕事は「六厘舎」からですか?

「飲食関係は鮨屋とかいろいろやったけど、『六厘舎』の前はホンダの工場で車を作ってましたね。そのあと『六厘舎』に6年半ぐらい。29歳から35歳くらいまでいました。入社前は、ラーメンも食べ歩きするほどではなかったし。ただ、ラーメンは好きで仕事帰りに、夜中のラーメンとかは食べてたね」

―車からラーメン関係に転職で、いきなりつけ麺の頂点「六厘舎」ですか。

「たまたま家の近くに『六厘舎』の工場ができたんですよ。ちょうど東京駅に『六厘舎TOKYO』ができた頃で、テレビで『六厘舎』が大崎でやってる時のすごい行列映像を見て、食べにいったんですね。初めて食べた時の衝撃というか、「今こんなのあるんだ!」ってびっくりして、それが『六厘舎』に入ったきっかけです」

―「六厘舎」に6年半、長いですよね。その間に独立を考えるようになったんですか。

「最初は『六厘舎』にずっといようと思ったんだけど、所帯がでかくなって、ちゃんと会社らしくなってきたんですよ。自分が会社員タイプじゃないのはわかってるから、背広着て毎日通勤してって、なんか違うなと。退職前の最後の一年は独立を考えて、ラーメンも年間500杯とか食べ歩きしてましたね」

―よくラーメン店で偶然会ったけど、御徒町の「チラナイサクラ」で会ったのが最初ですよ。グループ代表の塚田さんが鍋をふるった1周年記念で。

「その頃は退職したあとで、勉強も兼ねていろんな有名店を食べ歩いてた。ほら清湯ってあんまり食べてなかったから、『六厘舎』は清湯と真逆じゃないですか。例えば、『六厘舎』を踏襲した味を店長だった瀨戸口さんが『つけめん さなだ』で出すならいいんですよ。俺がそれをやっても二番煎じ三番煎じだし、その土俵では勝負しない。自分の実力で1からやりたかった。それで食べ歩きしていて、ラーメンでミシュラン一つ星を獲得した蔦の大西さん、鳴龍の齋藤さんと知り合って、すごくよくしてもらいました。朝霞の『まーむ食堂』で間借り営業していた最初の頃なんて、ラーメン本に載っていた齋藤さんのレシピを見て作ってましたもん(笑)。しかも齋藤さんが打った麺をいただいて。今じゃ考えられない。間借り営業は週2で8カ月くらいやったかな。『まーむ食堂』が移転するんで、間借りも辞めざるを得なくなって、そこから店舗を探し始めたんですよ」

間借り営業時代の「醤油つけ麺」。鳴龍提供の麺を使用

初のビブグルマン受賞。ミシュラン一つ星を獲得した鳴龍の齋藤氏とともに

―最初、埼玉で探してたけど(笑)。

「埼玉の裏切り者って言われましたからね、東京に来て(笑)。本当は地元で、朝霞でやりたかったの。10軒以上見たけど、ちょうどいい物件がマジでなかった。物件もいいタイミングというか出合いなんで。ここもたまたま、いい出合いでしたね」

―間借りの時も店舗は2階でしたね。

「そう、だからここも2階にしたかった。それにちゃんと美味しいもん出してれば2階でも来るよねって、変な自信があって。わざわざ2階に上がってこんな空間だったら、『おお、すげー!』ってなるじゃないですか」

―確かにお店のつくり、カウンター席と厨房間の高い壁は話題でしたね(笑)。

「これ最初、ベルリンの壁って言われたんだけど、お客様目線ファーストにしたかったから、本当は床を底上げするのをやめて天井までの空間を広くとったの。これからの時代、女性が一人で来れるような、広くて綺麗で清潔でっていうのは絶対条件だと思って。厨房のオープンキッチンスタイルは、全然嫌いじゃないんだけど、見てる人はラーメン屋大好き目線の人だけでしょ。いや、俺も見たいよ。見たいけど、結局来た商品が全てでしょう。じゃあイタリアンで厨房を見ます? 見ないよね。フレンチは? 見ないよね。作ってるところ見せなくてン万円とか。ラーメンだけなんですよ、ライブで調理から全部ひっくるめて見せて、こんなに安いのは。安すぎますよ」

オペレーション的には提供しにくいカウンター席だが、ソーシャルディスタンス確保に功を奏した

―間借り営業から含めて、味が変わりましたよね。

「東長崎でオープンしてからも、味も食材もすごく変えてますね。特に途中で味がガラッと変わったのは、飯田商店で食べてから。その前からも食べてるけど、いつも飯田さんには、自分の鼻を折られに行くの。自分のラーメンが『ああ美味しくなったなあ』と思って、それで湯河原へ確認しに行くんですよ。もうだめ、全然レベルが違うって。でも、そういう指針になる店があるのも素晴らしいなって思う。自分の中では、今、店で出しているラーメンの頂点が、飯田商店だから」

―「昆布水の淡麗つけめん」は、飯田商店オマージュですよね。

「そう飯田商店が出していた、昆布水のつけ麺のオマージュ。飯田さんは、それを全部捨ててメニューを全リニューアルされたんで、前のつけ麺が食べたいと思って。俺、自分が食べたいやつを作りたいの。最初のとっかかりはモノマネだけど、マネから始まって自分のフィルターを通して自分好みにしていく感じでね。ただ、こういう美味しい昆布水のつけ麺をこっちの人にも食べてもらいたいっていうのが本当の気持ち。お客さんで飯田商店を知らない人も多かったから。うちで食べて知ってくれたら、飯田商店や他の美味しい店に行ってくださいっていうきっかけ作りでいいと思って」

「特選昆布水の淡麗つけめん(塩・醤油)」

手際よく調理する金田店主。昆布水はつけ汁と絡みやすいさらりとしたタイプ

―大きく食材を変えたのは、ビブグルマンを獲得したあとですよね。

「そう、最初にビブグルマンとった時には、俺のレベルが何でとれるのかなーって思った。嬉しいけど、もっと美味しい店があるんじゃないって。そもそも高級食材を最初から使わなかった理由は、自分に実力がなかったから。最初は安い食材で作りこんで美味しくしてっていうのを繰り返して、だんだん限界がわかってきた。香りも旨味も、もうこれ以上出ないよねって。それで価値に見合った食材を使おうと思った。あとお客さんも舌が肥えてくるんで、いいものってわかるんですよ、香りとか味の深みとか。自分もレベルアップしつつ、お客さんもレベルアップしていくので、それをすることによって他の追随を許さないようにしたいんですよ、同じ清湯ラーメンの系統でね。それで、今まで業者から仕入れていた食材を、自分で現地に行って仕入れるようになったんです。今使ってる丹波黒どりは、もともと紹介してもらったんだけど、現地の厩舎にも行って、担当者の方と話すことによって、いいものを入れてもらえるようになりました。前は半分くらいだったのが、今は100%丹波黒どり。いろんな部位とか全部入れてもらえて、すごくよくしてもらってます。作り方も変えて、器も有田焼に変えて、全部変えましたね。チャーシューも前はオーブンで焼いてたけど、今は吊るし焼きがほぼメイン。まあ、吊るし焼きに変えたのは自分が好きだったからだけど(笑)」

三元豚と鴨ロースの吊るし焼きチャーシュー

鴨肉本来の旨味、吊るし焼きの香ばしさを楽しむなら単品「鴨ワサ」がオススメ

―夏の冷やしシリーズも人気ですよね。

「煮干しらぁめんは、煮干しの量を昨年の1.5倍ぐらい増やして、値段も質もいいものに変えたから、冷やして飲むと明らかに違いがわかるね。油は味も量も邪魔しない程度に入れて、煮干し出汁を楽しめるようにしてます。月替わりで7月は『南高梅冷やし煮干しらぁめん』。特に8月に予定してる『冷やしトマトの煮干しらぁめん for イタリアン』は、これしか食べない人もいるくらい。気温が30℃近いと冷やししか出ないほど、夏のキラーコンテンツですね」

6月の限定「酢橘の冷やし煮干しらぁめん」。7月以降も月替わりで提供予定

「ラーメンって、人間性が全部出ると思う。飯田さんはさっきも言った通り、新しいことを取り入れていくっていうのは、意欲とその前向きな姿勢がないとなかなか難しいですよ。麺処ほん田の本田さんに至っては、コロナ禍の真っ最中に秋葉原に移転とか普通はしないですよ。それで、ちゃんと結果も出してるし。鳴龍の齋藤さんと饗くろ㐂の黒木さんは、オリジナリティというか、一つひとつのクオリティが抜きんでて、すごく影響を受けてます。やりたいことをちゃんとやって、その分お金もいただくけど、それに見合うものを提供するっていう気合い、覚悟ができてる店は違う。他にもたくさんの方に影響を受けてるけど、皆さん人間性が素晴らしい。人としてもすごく尊敬してます」

―尊敬できる方々から影響を受けて、自分も変わった? 相変わらず饒舌だけど(笑)。

「周りの見る目はだいぶ変わったかな、俺は変わらないですけどね。それを生意気と捉える人もいるかもしれないけど。ミシュランとるとらない関係なく、これからも自分の中で納得いくものをもっと作っていきたい。今考えてるのは、びっくりするぐらいカネキッチンとは真逆なこと。そんなことをやるつもりです」

カネキッチン ヌードル(KaneKitchen Noodles)

 東京都豊島区南長崎5-26-15 マチテラス南長崎 2F
 木~火 11:30~15:00 18:00~21:00
 水曜定休(その他連休あり)

 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業・材料切れ終了・限定情報など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。

大熊美智代 Michiyo Okuma

 ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。

本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna

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