2018年10月23日オープンの「自家製手もみ麺 鈴ノ木」。1年でラーメンに関わる数々の賞を受賞し、2年目のいま埼玉ナンバーワンの座に躍り出た。2020年8月1日には店舗拡張リニューアルをしたばかり。躍進目覚ましい店を切り盛りする鈴木一成店主がラーメン業界に入ったのは、この連載で一番に紹介した名店「つけめん さなだ」(https://ramen.walkerplus.com/article/4004292/)の瀨戸口店主が絡んでいるという。
-瀨戸口店主とは同級生ですよね。
「はい、中学の同級生で、僕がラーメン店で働きたいと思ったきっかけは瀨戸口なんです。瀨戸口が『六厘舎』の店長だった時、店に並ぶお客さんのすごい行列と一緒に彼がテレビに映って、『瀨戸口がテレビに出てる!』って驚いて。
あの時まだ27、8歳ですよ。同級生がテレビに出るほど頑張ってる姿が刺激になったんですよね。それで瀨戸口に連絡したら、ちょうど六厘舎のソラマチ店で人が足りないから『お前うち来いよ』って言ってくれて。それで仕事を辞めて六厘舎を運営する松富士食品に入社して、頑張って1年経たないぐらいと最短でソラマチの店長になったんです。その頃は六厘舎もすごい大所帯で40人ぐらい従業員がいて、1日50万円とか売り上げる店だったので、オペレーションや人件費の管理とか、色々なことを学びました。でも、当時はセントラルキッチンで作ってたので、技術的なことは学べなかったんですね。スープや麺ってどうやって作るんだろうっていう疑問が生まれて。セントラルキッチンの工場勤務なら技術的なことを覚えられるけど、僕は接客しながら学びたかった。これは個人店で働くしかないと思って3年半勤めた会社を辞めることになったんですが、ここでお金をかけて育てていただき、色々なことを学ばせていただいた経験は、今の自分に生きてます。新店でこれだけ多くの方に来ていただけるのは、ソラマチ店店長を経験したことが大きかったし、今の自分があるのも松富士食品での経験があったから。すごく感謝しています。
その後、都内の有名店数店でさらに3年半経験を積んで、合わせて7年ですが、独立までにもっと修業を積む人も多い業界で、僕はまだまだ修業が足りなかったかもしれない。でも、自分の店を持ちたいっていう気持ちがすごい強くなってきて、独立を決めたんです」
-狭山ヶ丘のこのお店、場所はどうしてここに?
「僕ら夫婦は西武ライオンズが好きで、4年前に所沢に引っ越してきたんです。ライオンズの選手がいつか来てくれるかもしれない、そういうところでお店を出したいなっていう夢があったんですね。店内のいたるところにライオンズのキャラクターグッズを置いたり、キャップもライオンズと、いつ来店されても準備万端です(笑)。最初、所沢も考えたけど駅前が繁華街なんですね。できれば静かなところでやりたくて、あちこち探したんですが、なかなかいい物件との出会いがなくて。探す範囲を広げてたまたま見にきたら、ちょうどここが空いてたんです。もともと10年以上続いた中華料理屋さんがあった場所で、そこは大繁盛して300mぐらい離れた場所にお店を建てて移転したところだったんです」
-縁起がいい場所ですね。
「そう、地元のお客さんが『ここは良い場所だから頑張れよ』『ここで地道に頑張ってれば大丈夫だよ』って言ってくださるような物件だったんです。大家さんも本当にいい方で、今回の改装工事も大家さんの伝で大工さんや施工会社に頼んでいただきました。
うちもおかげさまで行列ができるようになって、近隣にご迷惑をお掛けすることもあって。その時、また瀨戸口のことを思い出したんですよ。彼も行列が原因で移転したじゃないですか。このままでは僕らも移転しなきゃいけなくなるかも…… それは嫌だなと思って、思い切って隣を借りて待合室を作ったんです」
-今年の夏は特に暑いし、冬は寒いし、中で待てるのは助かります。
「ちょっと話が飛びますが、店名の由来って、『コウノドリ』の漫画家・鈴ノ木ユウさんなんですよ。妊娠・出産をテーマにした産科医の話でドラマ化にもなりましたが、僕らこの作品が好きで漫画はもちろんドラマもずっと見てたんです。これから生まれてくる子供たちの命を繋ぐ産科医の話と、うちの店のコンセプト『子供でも安心して食べられるラーメンを作りたい』っていうのが繋がるなと思ったんですね。苗字の鈴木の“木”から、木をモチーフにした温かみのある店にしたかったし、そこ全部含めて『鈴ノ木』っていう名前にしたんです。オープン当初はカウンターしかなかったので、子連れは難しかった。2年越しですがテーブル席もできて、子連れでも来ていただきたいっていう思いがやっと叶いました」
-だから絵本も置いてあるんですね。
「妻が、やなせたかしさんが好きで、テーブル席の横に『やさしいライオン』の絵本を置いてます。家族で来てもらってお子さんに見ていただけたら嬉しいです」
-ラーメンを頂くの久しぶりだったんですが、スープも変わってるけど、麺が全然違う!
「2年目に突入して、店のカラーを出したくて、麺を今年1月から変えたんです。オープン時はラーメン用の小麦粉100%だったんですが、今は讃岐うどんで使われる『きぬあかり』を20%ぐらい配合してるので、より喉ごしよく、コシも強くなりました。このラーメンの麺の他に、限定の麺の2種類を打ってます。あとラーメンの麺の揉み方を変えてつけ麺、まぜそばの麺の2種類を加えて、4種類の麺を使い分けてます」
-麺がうどんっぽいのは、そのせいなんですね。
「この辺、美味しいうどん屋さんが多くて、うどん屋さんとのお付き合いが増えたんですよ。違うジャンルのところから得る話って新鮮で学ぶことが本当にいっぱいあって、小麦粉の配合を変えてみようと思ったのも、うどん屋さんからのアドバイスがあったからです。隣駅の小手指の『うどん家 一』さん、東京都羽村市の『手打ちうどん さかもと』さん、本川越の『手打うどん 長谷沼』さんとか、そして同じ狭山ヶ丘には名店『自家製うどん うどきち』さんもありますし、まさにうどん激戦地域! 美味しくてレベルも高いお店ばかりで、皆さんからたくさんのことを教わってます」
「スープは、醤油自体は最初からほとんど変えてないんですよ。日本一醤油のたまりと再仕込み、和歌山県の丸大豆醤油と生揚げ醤油の4種類を合わせ、魚醬を加えたりしています。出汁も大山鶏と山水地鶏の丸鶏と素材は変わってないけど、ただ前より出汁がすごい強くなってます。というのも麺が強くなったから、麺に負けないように出汁も以前の1.5倍くらい濃くしたんです」
-醤油も鶏感増したけど、無化調でこれでもかってくらい貝の旨味が押し寄せてくる塩は美味しすぎ! ピロピロ麺の存在感もすごい…… 加水率も変えたの?
「加水率も上げましたね。最初は42%くらいからスタートして、いま50%近い超多加水麺です。実はこの辺、武蔵野うどんの文化圏なんですね。地粉を使った麺で、太くてコシが強く、低加水のしっかりした食感で、僕の打つ超多加水麺とは真逆。ここでお店をやるならその特性に合わせないといけないかなと、最初は悩んだけど、自分のやりたいラーメンをやらないでどうするんだって」
-初志貫徹した結果、超多加水麺が受け入れられたと。しかも真逆の好みの文化圏で!
「そうですね。ただ、加水率を上げた代わりに塩を増やしてるから、前よりコシがあるんですよ。これもうどん屋さんから教わったんですけど、うどんのコシがあれだけ強いのは塩をいっぱい入れているからだって。塩が12%とか入ってるんですよ。ラーメンだと1%ですから10倍以上入ってる。その塩を茹でながら逃がしてるんですね。それで超多加水麺でもしっかりとしたコシのある麺ができて、皆さんにも受け入れられたと思います」
-多加水麺へのこだわりがすごいですね。
「もともと多加水麺が好きで、食べに行く店も多加水麺のラーメン店が中心だったんです。独立する時も多加水麺で行こうって決めてたから、つい最近、思いつきで始めたわけじゃない。修業を始める前から独立したら多加水麺をやりたいって、それはずっとブレてない。でも、まだまだです。もっともっと美味しくしないと、もっともっと勉強しないとお客さんはついてこないと思ってます」
-異業種はもちろん他のラーメン店にも勉強に行ったり?
「食べ歩きってほどじゃないですが、ラーメン仲間のSNSを参考にして、時々食べに行ってます。有名店のラーメン店主さんも食べ歩きする方、多いじゃないですか。どこまでも研鑽を重ねるってすごいですよね、見倣いたいと思ってます。あとは埼玉のラーメン仲間といっても大御所ばかりなんですが、その集まりにも呼んでいただいてお世話になってます。鶏油を博多地鶏に変えたのも、そこで教えていただいたんですね。この2年間にいろんな人と出会って、いろんな話を聞いて、自分流に取り込んで、試して、今がある感じです」
-味はもちろん今後どんなお店になっていくのか、それも楽しみ。
「一番は地元のお客様に長く愛される店にしたい。2号店とか出すつもりもないし、ここでずっと夫婦でやってくつもりです。そもそも僕が夫婦でやりたかったから、妻を無理やり引き込んだんですね。あったかい店にしたい。そこには妻が必要だった。実は、僕が目標としてるお店も夫婦経営なんですね。入間の『old school 中華そば Miya De La Soul(ミヤ デ ラ ソウル)』さんという超人気店です。店主の岩崎さんがすごく格好よくて! 自分のスタイルを貫いて、やりたいことを全力でされている姿に憧れてます。奥様の接客もとても丁寧で、ご家族連れの方も居心地よく過ごせる、そんな空間をつくるご夫妻がお店を切り盛りされる姿は、僕たち夫婦の目標なんです」
「夜、ゆったり飲める雰囲気も、地元のお客さんにようやく根付いてきたかな。ビールや生レモンサワー、秋は酢橘サワーとか季節の美味しいものをお酒に使ったりしてるので、夜は一品つまみに楽しんでもらえるといいですね。常連様に人気の自家製梅干しサワーは、今年の分を丁寧に妻が仕込み中ですので、今しばらくお待ち下さい。
行列ができるほど待ってまで食べてくださるのは、本当に嬉しいです。少しでも快適にお待ちいただけるよう、これからもお客様第一に考えて続けていきたいと思います」
自家製手もみ麺 鈴ノ木
埼玉県所沢市狭山ケ丘1-3003-83
11:30~14:45 18:00~20:45(火曜は昼営業のみ)
水曜定休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/suzunoki0802)をご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna
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