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お肉屋さんがいきなりラーメンを始めた!? 行列のできる名店の不思議な歴史 喜奴屋(東京・西武立川)【ZATSUのオスス麺 in 武蔵野・多摩】第38回

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 今回のオスス麺は、立川の外れにある行列が出来る人気店「喜奴屋」。

西武拝島線・西武立川駅から徒歩20分ほど、松中団地近くに店を構える「喜奴屋」

 店頭幕には「喜奴屋」の文字が書かれていますが、建物には「千葉ミート」と書かれた不思議なお店。

 中華そばの人気店「喜奴屋」として認知されている現在は何の疑問も持ちませんが、まだそこまで認知されていない頃に初めて伺った時は「ここで良いんだよな?」と、一瞬ためらう感じでした。

 何故「千葉ミート」と書かれているのかというと、ご主人の千葉さんは食肉卸業「千葉ミート」の二代目で、所謂「お肉屋さん」なのです。

 ラーメン屋を始める前は、肉屋と並行して割烹店を経営していたとの事。

 その当時は、漫画「ラーメン発見伝」が愛読書だったというほどラーメン好きだったご主人は、好きが高じていつの日からか割烹店の中でもお客様にラーメンを提供するように。

 そのラーメンは、値段はお客さんが付けるという方式にして、最初は10円しかつかなったのが次は50円と、次第に商品として価値のあるものに近づき、「500円まで値がついたらラーメン屋に転職しよう!」との考えで実行。2003年1月8日、本当にラーメン店を開業してしまったのです!

 勢い任せの安易な考えでの開業で、宣伝もしなければ店名も無く、当然ながらお客さんも来ない日が続くばかりで、スープを作っては捨てるのを繰り返す毎日……。「麺屋武蔵」や「中村屋」などが話題となったラーメンブームの中、行列店に憧れるも開業1年で食材費が150万円を超え、途方に暮れたとの話。

 そんな中、ご主人の知らない所でラーメンサイトにお店の事を書き込んだ方がいて、一気に評判が評判を呼び、翌々週からいきなり行列の出来るお店になってしまったとの事。

 それまで、ご主人一人で仕込みから営業をしていましたが、何が起きているかわからない中でいきなりお客さんが殺到した事でさすがに手が回らず、配膳と洗い物はお祖父さんに手伝って貰っていたそう。

 しばらくすると多くの良い出会いに恵まれ、スタッフも充実し「喜奴屋」として軌道に乗り、開業から3年後には製麺技術も無いのに製麺機を買って独学で麺作りをし、開業当時のレシピを全て捨てて麺に合うスープに変更したとの事。

 見切り発車的な感じでのスタートではありましたが、そのバイタリティがあってこその今があるこのお店。「喜奴屋」という屋号は、「喜ぶ奴(お客さん)の顔がみたい」との思いから付けられたとの事。

「喜奴屋 福生店」(2007~2012)

「喜奴屋 小金井店」(2012~2013)

 地域密着で地元客に愛されるお店なのでローカルなイメージがありますが、2005年に軽井沢、2007年に福生、2012年に小金井などにも出店していた事もあり、さらに2013年にはマレーシア、2014年にはジャカルタと海外にも出店していたグローバルなお店なのです。

 残念ながら立川本店以外は閉店され、海外もマレーシア経済の低迷により撤退、コロナの影響などもあってジャカルタも閉店されてしまったようですが、豚や酒を使えない環境下でのラーメン作りは素晴らしい経験で、貴重な財産になったとの事です。

 ご主人は一見強面ですが、凄く人情味のある方で、不思議と人を惹き付ける魅力があり、話してみるとその気さくさや然り気無い優しさに気づく事が出来ます。

 私個人としても凄く思い入れのあるお店で、今でこそ「ラーメンブロガー」として日々、多種多様なラーメンを食べ歩いていますが、元々そこまでラーメンに詳しく無く、ラーメンと言えば味噌ラーメンしか食べなかったほど。「大学ラーメン」を食べてからラーメンの魅力に気づいたものの、やっぱり豚骨ラーメンやこってりラーメンが好きで、煮干しは苦手で塩やあっさりしたラーメンは興味が無いみたいな偏食家でした。

 それがここのラーメンを初めて食べた時に、煮干しや塩を「美味しい」「好き」と感じる事ができ、それまでの価値観が一転し、私にとってのラーメンの世界が大きく広がりました。

 「塩」は勿論ですが、「醤油」「味噌」「辛味噌」などバリエーションのある味に、「中華そば」「つけ麺」「油そば」とラインナップを揃えてあり、店舗も座敷が用意されてゆったり落ち着く空間なので家族連れにも重宝されています。駅から離れたアクセスが良いとは言えない立地ながらも、行列の出来る人気店として西多摩地区を代表するラーメン店となっています。

「中華そば(塩)」※現在は梅干しが別売りトッピングとなりました

 私にとってのラーメンの世界観を大きく変えてくれた一杯が、この「中華そば(塩)」。この一杯がラーメンマニアへの第一歩になったと言っても過言で無いもので、以来ここでは8割方「塩」を頼むようになりました。

 ご主人は「昭島大勝軒@昭島」や「メルシー@東中神」などが好きで、その影響を少なからず受けていて、スープは煮干しが主役となったもの。

 煮干しは、鹿児島県産の限定平子から味の重さ、丸鯖から味の深さ、ウルメからは香りを追及。そして動物系は長年の食肉卸業の経験を活かし、ガラだけでなく他店では知らないような部位の肉も使ったとの事。

 厳選された食材からとられたスープは、魚介の味わいや風味を存分に感じながらもクセを感じさせない仕上がりで、煮干しや塩に苦手意識があった私を虜にした味わい。立川界隈で美味しい塩は?と聞かれたら、真っ先にここが思い浮かびます。

 お肉屋さんだけあってチャーシューも絶品!

 長さのある豚バラチャーシューは、いつ食べてもブレる事無くトロトロの柔らかさで、バラ肉なのに重くない軽やかな味わい!

「ワンタン麺(正油)」

 醤油味は、甘味が強く醤油感もやわらかで、塩よりもマイルドな感じに仕上がっています。

 ワンタンはチュルンとした口当たりながらしっかりした皮で、スッキリした味わいの肉餡が入っていて食べやすく、マイルドな醤油ラーメンとの相性バッチリ!

「つけ麺(塩)」

 「つけ麺」は、麺の美味しさを存分に感じられるもの。つけ汁はあっさりだけど濃厚なコクと旨味が感じられるもので、一番人気のメニューとなっています。

「油そば(塩)」(スープ付き)

 「喜奴屋」の中で私が好んで食べているのが「油そば(塩)」。

 「油そば」や「まぜそば」などのスープの無い“汁なし”と呼ばれるラーメンで、鶏油をベースに魚介が香るあっさりした油そば。

 汁なし系は、色々なお店で今まで数え切れない位食べてきましたが、それでもやっぱりここが一番で、他のどの汁なしとも違うオリジナリティがあります。

「背脂油そば(正油)」(スープ付き)

「背脂ラーメン(正油)」

 「喜奴屋」と言えば、あっさりというイメージが強いですが、その概念を覆す背脂系のメニューがここ数年で登場!

 不揃いで粗めな背脂がたっぷりで存在感があり、ラーメン・油そばのどちらも背脂が味の主軸となっていると言っても過言が無いようなもの。脂なので当然こってりしていますが、しつこさが無く意外と軽やかで強いコクと旨味を与えてくれて、ハマると抜け出せなくなる中毒性を持っていて、この背脂だけ飲みたいというお客さんもいるとの話。

冬の風物詩的な限定メニュー「菜麺」

 冬場になると提供される「菜麺」という期間限定メニューも人気!

 旬の白菜の甘味を楽しめる所謂「タンメン」ですが、年々変化が加わっていて、同じメニューでありながら、「今年はどんなだろう?」と楽しみに出来る、季節を感じられる一杯!

「納豆キムチの油そば」(スープ付き)

 時々限定で提供されていた油そばで、納豆とキムチが絶妙にマッチし、残ったタレや具材とご飯を合わせる「米割り」で最後まで堪能出来る一杯でした。

「豚骨ラーメン」

「デミハンバーグライス」

 現在は元に戻りましたが、2013年頃には「豚骨ラーメン」や「定食」も提供していた時期があり、定食や丼物のクオリティが予想以上に高く、このまま定食屋になってしまうのでは無いかと心配になったほどです。

 私にとってのラーメンの世界を広げてくれたお店は、きっと他の誰かのラーメンの世界観も変えてくれると思います。特別な味では無く普通の味を丁寧にバランス良く仕上げる事によって、他とは一味違う味に仕上がった上質なラーメン・つけ麺・油そばを食べさせてくれるオススメのお店です。

 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/kidoya_web)をご確認ください。

ZATSU

2006年に開設したブログ「ZATSUのラーメン」の管理人。武蔵野・多摩地区を中心にしたラーメン食べ歩きを始めて15年以上。現在は年間400〜500杯程度を食べ、新店コレクターでありながらも老舗店やリピートするお店も多数あり。チェーン店からファミレス、カップ麺までも愛する真性の「ラーメン好き」で、基本的に何でも美味しく食べられる幸せ者。「自分の好みのラーメンを見つけて欲しい」と言う思いをモットーに色々なラーメンを紹介していきます。

本人ブログ(http://blog.livedoor.jp/zatsu_ke/

本人Twitter @zatsu_ke

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