

ラーメンWalkerがテーマを決めて名店店主とともに新たなラーメンをお届けする企画。2022年11月26日~28日は、「埼玉のラーメンを味わい尽くす」第3弾、埼玉ラーメン界のレジェンド『麺家うえだ』の名物女将・上田みさえさんが直弟子『麺.SUZUKi』鈴木貴弘店主とタッグを組んで初登場。みさえ女将自らバーナーで豪快に炙り風味立てる「焦がし醤油ラーメン」に対し、鈴木店主が師匠との思い出の鶏スープで挑む! ラーメンの表舞台から卒業したみさえ女将が、最後に直弟子と紡ぐラーメンストーリーとは?

ラーメン界の遅咲きのレジェンドが、20年のラーメン人生から卒業した日
ラーメン界で数多くの偉業を成し遂げてきた上田みさえさんだが、実は遅咲きのレジェンドだ。31歳で飲食業を始めてから、喫茶店、焼き肉店と多店舗展開し、成功を収めてきた。56歳の時、そのすべてをすっぱり辞めて一念発起、独学でラーメン店を開業したのだ。焼き肉店での経験を活かし牛骨ラーメンで人気店となるも、BSE問題で牛骨を捨てる。次に鶏ガラスープで出直すが、鳥インフルエンザでまたもや廃業の危機に瀕する。借金を抱えて店の存続も危うい状況だったが、みさえさんは諦めなかった。数々の苦難を乗り越え、「特濃豚骨魚介醤油ラーメン」「焦がし醤油ラーメン」と、これまでにない味を打ち出して、『麺家うえだ』の名が全国に知れ渡るほどの人気店へと押し上げていった。

ラーメン人生20年を迎えた2019年。日々のラーメン作りで骨折を繰り返すようになり、医師からドクターストップがかかるほどになっていた。76歳になったみさえさんは、店をラーメン仲間の朝霞『中華蕎麦 瑞山』に譲り、自分は『麺家うえだ』を卒業し、表舞台から退くことを決めた。「20年やってきて、ここで1つの区切りをつけないと次に進めない気がしたんです。だから、敢えて“引退”ではなく“卒業”という言葉を使わせてもらいました」。

卒業から3年。店を譲ったといっても、『麺家うえだ』の看板で営業する以上、その味をキープしなくてはいけないと、今でもみさえさんは朝の仕込みに入る。「結局、いまも骨折8ヵ所やってるんですよ。骨がつぶれたところを、また重い寸胴を持ってつぶすじゃないですか。背骨も曲がってるし、身長が11cm低くなりました」と、卒業してからも骨の折れる役どころだ。
常連から弟子入り。ラーメン屋の夢を叶えることができた女将の一言

鈴木貴弘さんは、もともと不動産屋に勤めながら、ラーメンを食べ歩くラーメンマニア。ある時、『麺家うえだ』を訪れてから、足しげく通うようになっていった。「いつも裏メニューばっかり頼んでたら、女将が『あんた、それ好きだねえ』って話しかけてくれて、そこからほぼ毎週通うようになりました」。4年ほど通った頃、「実は、ラーメン屋さんをやりたいんです」と女将に相談した。悩んでいた鈴木さんに、「何にしてもお金がかかるから、不動産屋でがんばってお金貯めて、それでもやりたいならうちにくればいい。また違うことをやりたいなら、別な方向もあるから、お金は貯めておいたほうがいいよ」と女将は親身になって答えてくれた。
ラーメン屋の夢を諦めず、しっかりお金貯めた鈴木さん。「今でも覚えてるんですけど、2月の大雪の日に勤めていた会社に今日辞めますって言って、自分の荷物を車に積んでタイヤにチェーンを巻いて帰ったんです。女将から電話がかかってきて退職したことを伝えて、そこからお世話になりました」。
独立を考えたのは1年半ほど修業した頃。2015年に『麺家うえだ』を辞め、その年に自身の店『麺.SUZUKi』を開業した。「結婚もあったんで、自分の中では思い出深い、激動の2015年。今思い返しても結構長い、いろいろ考える1年でしたね」と鈴木さん。

愛弟子と二人三脚でやり遂げた、名物女将の最後の仕事
今回、ラーメンWalkerキッチン出店が実現したが、それまでみさえさんはオファーを断り続けていた。「何回かお話をいただいたけど、その時は人手も足りないし、店の仕込み以外に夜中に仕込みして… というのは厳しいし、出る気もなかった」。そんな女将もラーメン店主仲間が出店する時には、応援にラーメンWalkerキッチンを訪れていた。
その様子をTwitterで見かけた鈴木さんが、「女将が、ラーメンWalkerキッチンの出店を人手がないから断ってると言うので、じゃあ自分でよければ手伝いますよってことになったんです」と助け船を出した。みさえさんも、「私は卒業しましたけど、鈴木はこれからの子だから。鈴木のためならやってあげたい。あと5年も経てば動けるかどうかわからないから、今のうちにわたしにできることがあればと思ったんですよ」と温かい言葉をかけた。

師匠から弟子に、弟子から師匠に、それぞれの思いを込めて作り上げたラーメンを、まずは師匠の「焦がし醤油らーめん」からどうぞ。

愛する地元・埼玉にご当地ラーメンを作ろうと、感謝を込めて生み出した一杯。みたらし団子からヒントを得た味は、埼玉の醤油をガスバーナーで大胆に炙り焦がしていくパフォーマンスとともに話題になった。

ラーメンWalkerキッチンでも、久しぶりに女将が厨房に立ってバーナーで炙る姿が何度も披露され、店内にいい香りが広がっていた。
一方、弟子の鈴木さんが手がけるのは、女将とは対照的な「鶏と水 塩」のラーメンだ。

「酉年生まれで、もともと鶏が好きだったんで」という鈴木さん。丁寧に炊き上げた鶏100%のスープは、高級地鶏から贅沢に旨味を抽出するというこだわりよう。塩ダレは6種の塩にハマグリなどをブレンドして、じんわりとやさしい旨味が広がる仕上がりだ。特に評判がよかったのは、しなやかな食感と抜群の啜り心地の自家製麺。「お客様から『麺が美味しいけど、どこの製麺屋?』と言われたのはとても嬉しかったです」と鈴木さん。

師匠に負けないラーメンを堂々とした所作で提供し、ラーメンWalkerキッチンを盛り上げてくれた鈴木店主だが、「こういう機会はなかなかないので、緊張感しかなかった。女将とは先生と生徒みたいな関係そのまんまですしね」と意外な言葉が。みさえさんも、「出店前に何度も店に行ってますが、いいもの出してるなって感じだった。正直言って、あの鈴木がこういうの出すのかって嬉しかったですね」と愛弟子の成長に目を細めた。

そんな鈴木さんが、「女将に唯一、スープの作り方を教えてもらったのって、鶏出汁なんですよ。覚えてないですか?」と言うと、「覚えてるよ。辞めるって言ってからね」とみさえさん。「僕が辞めるって伝えたら、『スープの作り方、教えてやるよ』って言われて…女将から教えてもらうの初めてだったんですよ。それが鶏ガラ(と鶏の**???**を使った)スープなんです。女将から教えてもらったのは唯一これだなって」と嬉しそうに話す鈴木さんはもちろん、師匠のみさえさんにとっても大事な思い出が一杯詰まった、「鶏と水」ラーメンだったということが伝わってくる。

今では自慢の弟子だが、「うちの店にいた時は年中喧嘩してましたよ」とみさえさんが言うと、「本当、喧嘩してましたね(笑)」と鈴木さんも笑う。
「今、鈴木は、苦労することを苦労と厭わないところに来たなって感じがする。人に使われている時はわからなかったことが、自分の店を持って初めて苦労を楽しみにできるようになった。そこまで来てると思う。ラーメンで一攫千金はもちろんすごいことなんだけど、そうじゃなくてラーメンの中で楽しむこと、それが必要なんです。鈴木は、その両方を持ってる… 最近ね(笑)」と、厨房で一番忙しく立ち回るみさえさんも笑顔を見せた。

今回の出店を最後に表舞台から退くということで、みさえ女将に会いに多くの方が訪れた。「あと1ヵ月で80歳になるババアにね、『一緒に写真撮りましょう』って、考えたらありがたい話ですよ。遺影に使うのかいって(笑)、ちょっとからかってやろうかと思ったけど、言わなかったですけどね(笑)」と、軽いリップサービスもさらっと言ってのける。そこが現役中から “みさえちゃん”と呼ばれてみんなに親しまれてきた魅力の一つでもある。
女将の最後の仕事を支えた鈴木店主も、「自分がラーメン業界に入る前から有名な方ですし、ありがたい反面、プレッシャーもあります。だからこそ僕も20年、店を存続させてラーメンで食べていけるように、努力し続けなきゃいけないと思います」と決意を新たにした。
みさえさんに今後を訪ねると、「一歩下がって、草葉の陰から見守るという感じですよね(笑)。ラーメン業界に仲間もできて、みんな『みさえちゃん、みさえちゃん』って仲良くしてくれて、すごく楽しい。それはそれでいいかな」と残念ながら卒業は覆らないようだ。
そして、最後に「鈴木は、まだ41歳だし、野心を持ってもっとやれやれ!がんばれよ!って、お尻を叩いてあげたいね」と愛弟子にエールを送った。ラーメンの今後を任された鈴木店主も、「今はラーメン居酒屋を2店舗展開してますし、今回の出店もすごく緊張しましたが楽しんでやれました。可能性は無限にあると思うので、これからも努力していろいろ挑戦していきたいと思います!」と女将の期待に応えた。師匠を追い越す活躍で恩返しする未来は、きっとすぐそこだ!

麺家うえだ
埼玉県新座市東北2-12-7
11時~15時/17時~21時
火11時~15時 L.O.各10分前
水休
https://twitter.com/uedamisae
麺.SUZUKi
埼玉県入間市下藤沢1122-1 ホワイトパレス104号
11時30分~15時
土・日・祝11時30分~15時/17時30分~21時
水・第1・3・5木休(祝日は営業)
https://twitter.com/men_suzuki
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッターをご確認ください。
ラーメンWalkerキッチン
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3-205
04-2968-7786
JR武蔵野線「東所沢」駅徒歩10分
https://ramen.walkerplus.com/kitchen/