今年、開店8年目を迎えた「麺処 ゆきち」。麺友おすすめの店と誘われて訪れたのは、6年前。豊富なメニューを皆でシェアして食べたとき、もともと味噌や塩が好きな私には珍しく、看板メニューの醤油ラーメンが美味しかったのを覚えている。
店主の倉井賢史さんは、NY出身の元フレンチシェフ・アイバン氏が手掛けた「アイバンラーメン(現在はNYに戻り営業)」、濃厚味噌ラーメンの先駆け的名店「麺処 くるり」などで7年ほど修業し、独立したのが2013年3月15日。あの美味しかったラーメンは、名店からどのように受け継がれたのか……? 初訪からずいぶん経ってしまったが、改めて倉井さんに伺った。
「35歳のとき、ラーメン店開業を目指して転職したんです。いくつかの店で働いたなかで、ラーメンについて1から10まで教わったのは『アイバンラーメン』ですね。『アイバンラーメン』のレシピのほぼ全てを教えていただけました。修業時代に店主のアイバンさんから言われたのは、『いずれ独立するなら、うちの真似しても面白くないよ』。僕もアイバンさんのラーメンをそのまま出すつもりはなくて、独立するなら自分で考えて作ったものを食べてもらいたいって思ってたから、『アイバンさん、僕もそのつもりです!』って」
--じゃあ、この醤油Aは「アイバンラーメン」の影響を受けた部分もあるけど、修業先そのままではなく、倉井さんならではのアレンジが?
「そうですね。アイバンさんと同じなのは、鶏と魚介のWスープの手法と、トマトを使っていることです。もちろん、スープのブレンドの割合とか使っている材料とか一切違います。トマトも、アイバンさんはローストトマトですが、僕はトマトソースをタレの一つとして醤油ラーメンに加えて、旨味を引き出すために使っています。
ただ、アイバンさんのラーメンを期待して来られる方もいますから、『アイバンさんのラーメンとは違いますよ』って言うとがっかりされますよね。それでも自分のラーメンで勝負したいんです」
「もう一つ、アイバンさんに言われたのが『ラーメンは自由だ』。それ、すごくいいなあって、僕にはしっくりきたんです。アイバンさんから教わった通りのラーメンじゃないといけないとか、型にはまらなくて、自由でいいんだって。ラーメン作りから、いただいた言葉一つひとつ、ラーメンに対する姿勢まで、アイバンさんにはたくさんのものをいただきました」
--自由な発想で生まれたのが、豊富なラーメンメニューなんですね。
「限定を楽しみにしてくれる方も多くて、限定で人気だったものがレギュラーになって、だんだん増えていった感じです。最初の頃は、限定ばかり人気で、レギュラーがダメなのかって落ち込んだりもしたけれど、限定も何も僕の作っているものには変わりない。それを求めて来てくれる人がいる。楽しみにしてくれてる人がいる。それって十分幸せだなって思ったんです。『おすすめのラーメンって何?』って聞かれることもありますが、全部ですね。自分で考えて作っている以上、全部同じ思い入れがあるわけだから、何を食べても美味しいと言ってもらえるようになれたらと思ってます」
--どの麺も、全員かわいいわが子ですね。確かにどれを食べようか毎回悩みます(笑)。メニューも増えましたが、味も変化していますか?
「スープは、オープン時からかなり変わりました。以前、魚介は旨味だけを抽出するようなイメージで作っていて、鶏をメインに考えてたんですけど、北習志野駅前の北習大勝軒も、西口の大勝軒も煮干メインのスープで、この辺の人は魚が好きなのかなって。じゃあ魚を強めていこうと、出汁を色々変えていったんですね。
そのなかで、もともと塩らーめんはあったんですが、限定で調味料を一切使わない出汁ラーメンを作ったり。せたが屋の『ラーメンゼロ』みたいな感じですね。その時、貝柱でとった油を塩らーめんに使えないかと思い、できたものが潮らーめんです。海のものを使っているので、氵(さんずい)の潮らーめんとして提供するようになりました」
--その増えたメニューごとに麺が違うのも、こだわってるなと。
「この8年でスープの作り方も変わりましたが、麺も変わりました。最初はカネジン食品の麺だけでしたが、今年の6月から塩、ソース、味噌、まぜそば用の麺を麺屋棣鄂に変え、メニューによって2つの製麺所を使い分けています。さらに、昨年12月から自家製麺を月一回くらいのペースで作っています」
--自家製麺の提供は、オープン前から考えていたんですか?
「自家製麺は、アイバンさんから学んでいたので、オープン前はいずれ自家製麺でと考えていたんです。でも、オープンしてからメニュー数が増え、余裕がなく、資金面でも厳しくて断念していました。そんな時、千葉県の無化調ラーメン店店主仲間5名で結成したグループ『ボンクラ(Blessing of nature club)』で、そのメンバーのThe Noodles & Saloon Kiriya店主・青木さんにパスタマシンでの製麺を教わることができて。まずは不定期で自家製麺を出そうと、昨年12月から提供を始めました」
--この加水高めのモチモチ麺は、Kiriyaさんの手ほどきを受けた麺だったんですね。
「自家製麺は、打つたびに加水を変えたり、小麦粉も産地にこだわらず、北海道、愛知などさまざま。かん水や塩の分量も変えて、楽しみながらやっています。8種類程の小麦粉から2つブレンドして使うことが多く、準強力粉と中力粉を使った麺が自分では気にいっています。いまのところ、製麺所の麺を主軸に、月1回くらいのペースで『ある時自家製麺』として提供できればと思っています」
--冬の限定、味噌らーめんの提供が始まりましたね。修業先の「麺処 くるり」は濃厚味噌でしたが、ゆきちさんはあっさり仕立てで。
「そうですね。味噌というとくるりさんですが、アイバンさん以外の店では見て覚えた感じだったので、くるりさんで見て覚えたことに自分なりの解釈を加えて仕上げてます。味噌ダレは白・白麹・赤の3種類の信州味噌を使って、醤油Aにも使っているトマトダレを入れるのが自分流です。他店ではだいたい味噌ダレに調味料を入れて用意しているところを、僕は味噌ダレをシンプルにして、提供時に足していく作り方をしています。その方が手間も時間もかかるのですが(笑)」
--自家製麺や他店とのコラボ麺も提供したり…今後の展開が楽しみです!
「これからどんな店にって考えたとき、オープンして5年くらいの頃のことを思い出します。2~3年はお客さんも少なくてしんどかったけど、諦めずにやってきて少しずつお客さんが増えてきた、そんな頃です。たまたまラーメン店のロゴ・デザインを手掛けるイラストレーター青木健さんのSNS投稿を拝見したんです。10年かけて山をぐるっと一周して辿り着いたところは、同じような場所に立っていても、その山の高さは違う。山をぐるっと1周しながら、ちょっとずつ頂上へ近づいていくというような。こういう登り方っていいなあって思ったんです。僕もラーメンを作りながら少しずつ上がっていって、いつか上のほうまで登っていた、そういう感じの成長の仕方ができたらいいなと。大幅に変えることなく、徐々に進んでいく成長の仕方がね」
--いろいろ苦労もあって、いま山を回りながら少しずつ登っているところですかね。
「そうですね。いままで通り、山を少しずつ登っていって。あとは、近所でうちの店を知ってる人がどんどん増えていってくれたらと。地元でラーメン店といえば『ゆきち』と言ってもらえるような、そんなお店になれたらいいなと思います。さらにラーメン店だけじゃなく、飲食店のなかでも北習志野で上のほうへいけたら……という野望もあります(笑)。ずっと地道にやってきたんで、これからも地道にやっていきます」
麺処 ゆきち
千葉県船橋市習志野台1-25-14
月~金11:30~14:30 17:30~21:30 土・日・祝11:30~15:30 17:00~20:30
水曜定休(祝日の場合は不定)
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/men_yukichi)をご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna
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