無性に食べたくなる生姜醤油ラーメンの名店はひたすらにブレない オランダ軒(埼玉県・さいたま市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第13回

2020年12月01日 18時00分更新

 関東で新潟長岡生姜醤油ラーメンというと、本場の流れを汲む店が数多く出店しているが、それらを押しのけて一番人気なのがここ。同業のラーメン店主に好きな店を聞くと「オランダ軒」と言う、そんなオランダ軒押し店主が結構いる。

 「オランダ軒」という名のせいか、この店を訪れる人は「入国」とか入退店を「入退国」と言う。コアなファンも多いこの店に、私も何度か入国したことはあるが、本場の支店には行ったことがなかった。取材の後、行ってみて納得。どちらも美味しい。ただ、ラーメンではなく二郎が食べたいというのと同じように、生姜醤油ラーメンではなく「オランダ軒」が食べたいと思わせる、無性に食べたくなる味だ。

―同業店主からも人気のこの味は、どうやって生まれたんですか?

「きっかけは、スノーボードかな。15歳からスノーボードをやってて、冬は新潟によく行ってたんですよ。専門学校を卒業してからはフリーターで夏は一生懸命バイトして、冬は新潟でもバイトしながらスノーボードをするっていう生活。その中でバイトのお金が入った時のちょっとした贅沢で、近所のラーメン屋に食べに行ってたんです。それが新潟の生姜醤油ラーメンとの最初の出会い」

―その時からラーメン屋さんをやりたかったとか?

「いや、飲食店自体はやりたかったんだけど、ラーメン屋っていう業態は流行り廃りがあって大変だと思ってたから、ラーメン屋をやろうとは全然思ってなかったです。そこから就職して長距離トラックの運転手をやっていて、30歳の頃、もともとスノーボードでバイトしてた焼肉屋さんから仕事に誘われて、田舎暮らしもいいなと思って新潟に移住したんですね。そこで昔、生姜醤油ラーメンを食べて感動した店の人と仲良くなって、彼が独立する時にラーメン屋を1年くらい手伝ったんです。

 でも、そこではスープも炊いたことないし、自分でラーメン屋をやる気もなかったし、修業じゃなく本当にちょっと手伝ったくらい。結局、ラーメンはそこまでしか関わってなくて、その後はいろんな仕事をする中で、次に出てくるのがハンバーガー屋さん。

 36歳頃から2年くらい有名ハンバーガー屋さんで働いて、38歳で辞めた時に、ちょうど地元の埼玉でラーメンを作る仕事の話が回ってきて。深く考えないで始めたんですね。結局、色々あって今の場所で、自分でラーメン店をやることに。だから、4年前に『オランダ軒』としてオープンした、ここからが僕のスタートなんです」

連日、店前の椅子を超えて行列ができる。岡持ちがひっくり返っていたら営業終了

「そもそも、ラーメン屋をやりたいって思ってなってないんですよ。よく『きっかけは?』って聞かれても、『いや、なんとなく』とかなっちゃうんで。でも、なんとなく始めたけど、せっかくやるなら、新潟で食べたあの生姜醤油ラーメンを作りたかった」

「しょうゆラーメン」。しっかり味の染みたメンマは今まで食べた中で一二を争うほど美味しい

―ベースは新潟でよく食べた生姜醤油ラーメン店の味ですか?

「その店でスープを作ったことがないから、見てただけなんで何とも言えないけど。うちのスープは豚2に鶏1ぐらいと、まず材料が違う。作り方も違うし、いろんなところが違うと思う。実は、初めてまともなスープを炊いたのはオープンの前々日くらいで、オープンした日がスープを炊いた2回目だったんですよ」

―それですぐにいろんなラーメンの賞をとったって、すごくないですか? 天才! 天才って言っていいですよ。

「そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。まあ、もともと僕もオタク気質があるんで、食べる側の気持ちとか、お客さんがこうすると嬉しいとかわかるんですよ。ただお店をやってるだけでは、お客さんってあんまり来ないじゃないですか。どうやったらお客さんが来てくれるか、そういうのを考えてやってます。

 例えば、スープがブレるって嫌じゃないですか。だから僕は一杯一杯丁寧に作る、そこだけはブレない。食材もできる限り国産を使ったり、ひたすらブレないで4年間やってきたことが、今なのかなって思う。だから、お金も欲しいけど、杯数は一日80杯までで増やさない。本当はもっと出したいんだけど、ただでさえ眠る時間もないんで、これ以上は無理かな」

キレのある醤油スープに、徐々に肉の味が溶けていく

―スープはもちろん肉の美味しさも評判ですよね。チャーシュートッピングは必須と言われるくらい。

「肉は、腕肉の塊なんですが、前脚の片側を自分で掃除して成形してチャーシューにする。毎日この塊6~7kgを4つ成形するんですよ。80食しか売らないのに(笑)」

―これは大変な仕事……他の店ではやらないですよね。

「やってるところは、まずないと思うよ。肉は、以前働いていたハンバーガー屋さんでも塊から自分たちで筋をとったり掃除して成形してたから。やっぱり塊の段階のほうが肉は酸化してないんで、だからチャーシューも自分でやったほうがいいのかなって」

―それはハンバーガー屋時代の土台があったから、ですよね。

「そうそう。僕のラーメンには、ハンバーガー屋さんの仕事がすごく影響してる。他にも、食べ物のバランスをハンバーガーで学んだんだ。ラーメンと一緒でハンバーガーも、バンズとパテとか、全部の世界がまとまってないと、どんなに美味しいものを使っても美味しくないの。

 ラーメンも、麺とスープの相性ってあるじゃないですか。僕はバランスを重要視してる。食べ物っていうのは、何かが特化してても、結局、全部で食べるものだから。ラーメンでも同じ、食べ物ってバランスだなって」

調理中は寡黙な山本店主。腕肉の塊から成形して作るチャーシューの味は格別

―じゃあ、バランスのもう一つ、麺はどうですか?

「うちの麺を食べるとスープの味がすると思うんです。麺屋さんにスープを吸う麺を作ってくださいって頼んだんですよ。でも、たいていの麺屋さんって、伸びにくい麺とかコシのある麺を作りたがるんで、最初は『スープを吸う麺って言われても……』って感じで。でも、そこは昔からの麺屋さんで、いろんな知識や技術があって、加水率や小麦粉を変えたり、それを何回かやって今の麺になったんです。変えるようには頼んでいないけど、麺屋さんのほうで小麦粉が2種類だったのを、今は3種類か4種類になってたりしてるらしいです。よりスープを吸うように、少しずつ変わってきてるんですね。ちょっと時間が経つと、麺だけ食べればスープがいらないくらい味が入りますよ」

スープを拾って醤油色に染まった麺は、麺だけでも美味しい

―麺に味が染みますよね。私も醤油が好きで、ずっと醤油だけ食べてたんですけど、取材前に塩を食べたら、醤油に負けなくくらい美味しかった!

「本当は醤油だけで勝負したかったんだけど、一応、塩もメニューに入れたんです。塩はある程度、分量入れちゃえば、味が決まってくるんで、醤油より味はブレない。醤油はチャーシューの煮汁がベースなんで、ブレるんですよ。塩分濃度だったり、いろんな部分の調節がすごい難しい。僕は、醤油だけ食べててくれればいいんだけど(笑)。でも、塩しか食べない人も結構いるから。定期的に交互に食べる人もいたり、いろんなタイプの人がいるからね」

初めて食べた「しおラーメン」も絶品

―カレーのある日も混雑してますね。

「肉の塊あったでしょ。あれを成形する過程で端材が出るんですよ。どうしようかなって考えて、手っ取り早くカレーが一番はけやすいかなと。結構、大量に端材が出るんで。だから肉がたまって、休日に朝から作るんで僕のスケジュールが空いてる時、月に一回くらいしか作らない。たいしたカレーじゃないけど、肉がいっぱい入ってるのと、玉ネギが尋常じゃない量なんです」

肉と玉ネギがたっぷり溶け込んだ「オラカレー」

―オラカレーっていう、ネーミングもいいですよね。

「ダサい名前が好きなんです(笑)。限定やっても、ダサい名前しかつけないんですよね。ミソンダ、Kiriンダ軒、じいさん肉とか。店名も、よく由来を聞かれるけど、僕がつけたんじゃなく、何のこだわりもなくて。だから、『いや、ちょっと秘密なんです』って言ってます(笑)。他店は皆さん真剣にやってそうで申し訳ないんですが、僕は結構適当なんですよ。でも、いい加減が、いい(良い)加減になってる感じですかね」

オランダ軒×Kiriyaコラボでは、Kiriンダ軒として限定麺を提供。写真右「アーバンパークライン的 担担麵」

限定の鶏チャーシューは、仲のいい加須「かし亀」リスペクト。「僕も鶏チャーシューやってます!って言いたくて(笑)」と山本さん

―常連さんも、山本さんのそこが好きだったり。

「そういう人もいてくれると思うんです。だから、なおさら店を離れられないし、ラーメンを作ることは自分一人でやるしかない。調理スタッフを入れてとか他の人に店を任せられないんです。だいたい、他店もそれでダメになるパターンのほうが多いでしょ。こんなに頑張ってきたのに、一瞬の楽しみで失うのも嫌だし。僕は、臆病なんですよ。お客さんが来なくなるのが怖い。だから、ひたすらブレないことだけを考える。

 ただ、美味しくブレるようにはしてるんです。最初とは作り方も全く違うし、材料の量も増えてる。同じように作っても、だんだん人って慣れてくるから、感動って薄れてくるじゃないですか」

―最初に食べた時はもっと美味しかったけどって、ありますよね。

「だから、絶えずいろんなことをチャレンジしてるんですよ。極端に違わない範囲で、分量だったり入れる時間帯だったり、美味しい時の作り方を参考にどんどんアップデートしていく。僕は、レシピを書面に起こさないんです。というのは、料理って毎日になると慣れちゃって、飽きちゃうんですよ。飽きないために、レシピを持たない」

―このラーメンのすべては、山本さんの頭の中にある。

「そう頭の中で、今日は美味しかった、よかったとか。今日は美味しくないな、何がダメなんだろうっていうのを考えながらやってかないと、自分が飽きちゃう。飽きたら美味しいものを作れないと思って。だから、レシピは一切ないんで、自分が死んじゃったら何も残らない。残ったスープと業者に発注してた材料から解読するしかないですね(笑)」

―じゃあ元気でいてもらわないと!

「これからも、でかいこと狙ってないんで、でかいこと言うつもりもないし。しいて言うなら別業態の飲食店をもう一軒やってみたいね。ラーメン屋だけじゃ終わりたくない。仕事もいろんなことやってたんで、引き出しは結構あるから。ラーメンが好きでいろいろ食べ歩きしてる店主さんもいるけど、僕は真逆だよね。あんまりラーメン食べないし、ラーメンにまったくこだわりなく(笑)」

―それでこんなに美味しいラーメンを作れている。

「こだわるところはこだわってますよ。ただ僕、言うのが嫌いなんで。材料とかもいい材料使ってるんだけど、何使ってるとか言っちゃうと、想像もそれ以上膨らまないじゃない。味ではなく情報で食べちゃうの。その情報を黙ってれば、ここより上にいくかもしれない。うちは麺屋さんも言わないし、使ってる豚だって言わないし、高い醤油を使ってるのも、別にいらない情報なんで。実力でいきますよ(笑)」

店主・山本靖さん。王者の風格?(笑)

オランダ軒

埼玉県さいたま市岩槻区東岩槻6-5-3 イケダ第一コーポ1F 2号室
11:00〜14:00/17:30〜19:00 日・祝11:00~16:00(材料なくなり次第閉店)
木曜定休

※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/punpui93)をご確認ください。

大熊美智代 Michiyo Okuma

 ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。

本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna

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