ラーメンWalker発!「未来を輝かせるラーメンストーリーズ」第7話

秋葉原の名店『饗 くろ㐂』限定麺の原点! 宮城県石巻十三浜のわかめにこめた生産者の想いとともに春の香りをお届け

2022年03月15日 12時00分更新

 ラーメンWalkerがテーマを決めて名店店主とともに新たなラーメンをお届けする企画。3月2日~3月9日は、秋葉原『饗 くろ㐂』が出店。ラーメンWalkerグランプリ2年連続第1位で殿堂入りの名店だ。大将の黒木直人さんは、東日本大震災の2011年に開業し、翌年に被災地応援で紹介された、宮城県石巻市十三浜のわかめに出会う。そのわかめを使った限定麺がくろ㐂の季節の限定麺の始まりだ。

『饗 くろ㐂』店主・黒木直人さん。くろ㐂の代名詞とも言える、限定麺の原点を語る

宮城県石巻十三浜のわかめでラーメンを作りたい

「それまで生のわかめを食べたことなかったから、びっくりしたね。初めて生のわかめを食べて美味しいなあと、これでラーメンを作りたいと思って」と語る、黒木さん。今回、ラーメンWalkerキッチンでも提供した、宮城県石巻十三浜のわかめを使った限定麺は、震災の翌2012年から始まって、今年で11年。毎年春には必ず、このわかめを使った限定を出し続けてきた。わかめが収穫できる期間は1ヵ月ほど。せっかくならその間、わかめの違う食べ方をたくさん提案できないかと、週替わりで提供するようになったという。

わかめの限定は、最初の「鯛出汁わかめそば」から始まって、今年で11回目!

「わかめは、何にでも寄り添うことができるのがいいところですね。しかも生なので、1ヵ月の間にどんどん成長して、大きくなるのよ。最初のほうは若くてまだ細いから、塩とかあっさり系がよく合う。成長するにつれて太くなってくるから、それに合わせて味噌とか味の濃いのにしたりね」

 今回の「煮干し肉わかめそば」は、まだ若いわかめだが、いきなり濃い目の醤油だ。

「煮干し肉わかめそば」。コクのあるスープに具もたっぷり

「最初、塩だけで考えていたんですが、今回は、塩と醤油の両方使ってます。塩ダレに正金醤油の薄口の生をブレンドしてるんです」

 その前週、前々週と、ラーメンWalkerキッチンでは「豚骨ラーメンの多様性をもっと知る」として、2週続けて豚骨ラーメン店が出店した。週替わりで人気店のラーメンを楽しみにしている常連も多いことを考慮したうえでの変更だ。

「豚骨からいきなりライトになりすぎても、物足りないと思う人もいるかもしれない。それでコクのある醤油を足そうかなと、ギリギリで決めました。正金醤油を発注したの、提供初日の2日前だから(笑)」

直前の試作でベストな仕上りに。具材をのせる順番も最終チェックで調整

 味付けの濃い豚バラ肉のトッピングも、わかめの限定では初めてだ。

「今まで、あんなに無骨な感じのはないですね。3月初めは、もともとまだ若いわかめなのと、今年は特に生育が遅いらしいんですよ。だから単体で食べるより、ちょっと甘辛く味付けした豚バラ肉とわかめを一緒に食べたほうが、わかめの磯の香りが引き立つんです」

 自然の恩恵を受けながら育つ食材だから、その状態は毎年違うし、天候によって日々変わっていく。届いた食材を見て、出汁のとり方も変えていく。

「煮干しも、うちにしてみれば強いんですよ。結構コクがある煮干しなんですね。最初は、さっぱりとした煮干しを考えていたんだけど、わかめの磯の香りを強く出すために、濃いめの煮干スープにしたんです」

 黒木さんは、何度も試作をしないという。扱う食材のことを、わかめならわかめのことを頭の中でずっと考えて、試作は出店初日の前日に一発勝負だ。

煮干し出汁は境港の背黒と広島の白口、あとは真昆布などを合わせて

生産地へ足を運び、生産者の想いごと受け取る

 全国の生産地に必ず足を運んできた黒木さん。11年目の提供となるわかめの産地、宮城県石巻市十三浜の、わかめ漁師の阿部滋さんのところにも震災から6年目に訪れている。

「一度痛い目みてるけど、石巻の人たちはすごい元気なんですよ。その頃は仮設住宅に住んでいて、『今年もまだ家できないよ~』って笑いながら漁をしてる」。黒木さんは、震災で船も家も漁具も養殖場もすべて流されながら、漁業を再開、復興させようとする阿部さんと漁師の皆さんのパワーを目の当たりにした。

今年も生産者の阿部さんの想いのこもった生わかめの限定がくろ㐂でいただけた

 生産地に足を運ぶ理由を「生産者と会わないと、想いがわからないから」という。阿部さんの想いを知り、黒木さんのフィルターを通して一杯に変換した時に、イコール美味しいとなる。それが黒木さんの求めるものだ。

つけそばの主役、めかぶ。お湯に入れると鮮やかな緑色に

 今回の食券を作る際、最初は「煮干しらーめん」と「つけそば」となっていた。「そうじゃなく、わかめそばなら『わかめ』、めかぶのつけそばなら『めかぶ』って言ってよって。僕は、限定は絶対そのワードで言うようにしてる。注文が入るたびに何回も何百回も伝えられるから、その言葉に触れることで、お客さんはわかめだ、めかぶだってわかるでしょう」。生産者の想いを知るからこその言葉だ。何万回でも伝えたいという、黒木さんの意思も伝わってくる。

「めかぶと鶏の和えつけそば」は「めかぶ」と大きく表記

「料理は愛情」責任をもって創り上げる一杯

 今回、宮城県石巻市十三浜のわかめやめかぶを、初めて食べたという人も多いだろう。関東から遠く離れた産地の食材に、旬の時期に出会う機会はなかなかない。くろ㐂の出店は、それを実際に見て、食べることができる貴重な体験だった。

「わかめは、注文毎に茹でてます。香りも全然違うし、茹でる前の元の状態がわかるから、初めて見る人はびっくりするね。めかぶもスーパーで刻まれてるのしか見たことない人が多いから『こんな形してるんだ』って、みんな驚くよ」

 くろ㐂で「ラーメン美味しかったね」じゃなく、「わかめ美味しかったね」「めかぶすごかったね!」と言ってもらえるのが一番うれしいと黒木さんは言う。実際、くろ㐂の限定で出会った食材を取り寄せ「食べたよ」と教えてくれる常連さんもいるとか。後でお客さんが生産地に行ったり、通販やスーパーで買ってくれるのが、黒木さんにとって最大の喜びなのだ。

 和食やイタリアンなどの異業種からラーメン店開業という経歴からか、ラーメンに対する考え方が独特だ。

「ラーメンって特殊じゃないですか。一杯に全部詰め込まなくちゃいけないから。そのなかにコースがあったり、ストーリーがあったりする。そのストーリーのなかの主役をどんな食材でもできちゃう料理だなって」

主役のわかめの緑にきれいな黄色の麺を合わせて。ビジュアルからも美味しさが伝わる

 「煮干し肉わかめそば」の麺は、同じ宮城県産の小麦あおばの恋で打った麺だ。敢えてにゅうめんのようなやわらかい細麺で合わせた。「わかめがまだ若いから、しっかり噛み切れない。だから後半とろける感じになるように、もっと細麺にしようと。そうすると、わかめが際立って印象に残るから」。食べ終わって「わかめが美味しかったね」と言ってもらえればいい。食べた後にそのものをしっかり感じられる一杯が、黒木さんのテーマだ。

 この食材にかける情熱は、どこからくるのだろうか。

「そもそも食材じゃなくて生産者、作ってる人、採ってる人に興味がある。その人の苦労とか、その人の希望とかを聞きたい。それを聞いて、そんなに苦労したなら、うちで加工してまずくできないねっていう責任も生まれるじゃないですか。これは、よくスタッフに言いますね。だから生産地にはスタッフもみんな連れていくんですよ」

 生産地を訪ね、育てる過程、苦労を知った食材は、捨てるところはほとんどないという。

「大根の皮も干してグルタミン酸をアップさせてスープに入れたり、トマトのヘタも干して使うからね、うちは。ラーメンって旨味の料理だから、いかに旨味をアップして、いかに美味しさの極限まで持っていったものをスープに添加するとかを考えてます」

「煮干し肉わかめそば」の具、大根の皮まで大切に使われている

 和食料理の鉄人・神田川俊郎氏の名言「料理は愛情」。黒木さんが板前の頃から大事にしている言葉だ。「料理は愛情って、本当だよって思うんですよ。どんなに料理がうまい人たちも、そこに思いが入ってなければ、それは美味しくない。伝わるものが違うからって、スタッフにもよく教えてますね」

 生産者を知ることで、調理も提供するときの想いも変わる。くろ㐂の弟子たち、食べに来てくれるお客さんと、創り上げる一杯に責任をもって伝えていくのが自分の役目と黒木さんは語ってくれた。

左・くろ㐂で修業した『麺 㐂色』分部店主にも、今いるスタッフにも、惜しみなく愛情を注ぐ黒木大将

饗 くろ㐂
東京都千代田区神田和泉町2-15 四連ビル3号館1階
月・水・木・金11時~15時
火・土    11時~15時・17時30分~19時30分
日祝休

※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/motenashikuroki)をご確認ください。

ラーメンWalkerキッチン
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3-205
04-2968-7786
JR武蔵野線「東所沢」駅徒歩10分
https://ramen.walkerplus.com/kitchen/

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