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東京・荻窪で1949年から続く老舗「荻窪中華そば春木屋」。日本のラーメン史を語るうえで欠かせないこの名店が、2026年夏、意外な挑戦に踏み出した。

「つけめんTETSU」の創業者であり、現在は「伊蔵八」「ナポレオン軒」「清麺 常藤」「ラーメンねぎとん」「札幌ラーメン⑥マルロク」など、多彩なラーメン店を手がける小宮一哲とタッグを組み、春木屋の恵比寿店限定メニューとして「皿中華そば」を開発したのだ。

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春木屋の恵比寿店限定メニュー「皿中華そば」。ラーメンでも油そばでもない、春木屋の旨味を凝縮した少量のスープを麺に絡めて味わう新感覚の一杯。

春木屋の伝統的な中華そばを大胆にアレンジしたこの一杯は、さらにセブン‐イレブンの「ラーメンWalker監修商品」としてチルド麺にもなり、全国のファンとの接点を生み出した。

しかし、今回のコラボレーションの本当の面白さは、商品そのものだけではない。

春木屋を2020年に事業承継したのは、首都圏を中心に「名代 富士そば」を展開するダイタングループ。二代目代表の丹有樹は、歴史ある名店を次世代へ残すという大きな使命を背負っている。

一方の小宮は、自ら人気ブランドを立ち上げ、育て、次々と新たな挑戦を続けるラーメン界屈指のヒットメーカー。

立場も歩んできた道も異なる二人だが、実は大きな共通点があった。それは、二人とも経営者や料理人である以前に、熱烈な「春木屋ファン」だったこと。

なぜ二人は手を組んだのか。そして、老舗の伝統を守るとは、どういうことなのか。

春木屋への愛情から飲食店経営の哲学、そして老舗の未来まで、じっくりと話を聞いた。

二人の原点は、父親に連れられて食べた春木屋の一杯

ラーメンWalker・松本(以下、松本): まず、お二人の出会いからお聞きしたいと思います。丹さんは、もともと「つけめんTETSU」をご存じだったんですよね。

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丹有樹(ダイタングループ・二代目代表)

丹: もちろんです。僕は横浜に住んでいるんですけど、横浜にも「つけめんTETSU」がありますし、小宮さんが手掛けているお店もあったので、ブランドはよく知っていました。

だから、実際にお会いした時は、正直うれしかったですね。「あのTETSUを創った方だ!」って(笑)。子どもにもすぐ話しました。学校に行く前にしょっちゅう食べているくらいなので。

松本: 小宮さんは、丹さんにどんな印象を持たれましたか?

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小宮一哲(つけめんTETSUの創業者。ほか多数の人気ラーメン店を手がける)

小宮: 僕は緊張しかなかったですね。やっぱり富士そばの代表ですから。事業規模も違いますし、僕らが学ぶことも多い。大先輩という感覚でした。

**松本: **そんなお二人に共通しているのが、春木屋への思いです。丹さんは事業承継される前から春木屋のファンだったそうですね。

丹: そうなんです。会社に入って父親と一緒に仕事をしていた頃、阿佐ヶ谷にグループ会社の事務所があったんです。

その事務所に行ったり、店舗を回ったりしている時に、父親から「うまいラーメンがあるから行こうよ」と連れていってもらったのが春木屋との最初の出会いでした。

それからもよく食べに行っていたので、事業承継のお話をいただいた時には、もちろんお店も歴史も知っていました。

松本: 小宮さんも、春木屋には特別な思い出があるんですよね。

小宮: 僕は小学校低学年の頃からですね。父親がテレビを見て、いろんなものを食べに連れていってくれる人だったんです。

当時は「荻窪ラーメン戦争」がテレビで盛んに取り上げられていた時代で、春木屋にも連れていってもらいました。

なので、家族全員が春木屋を知っていて、僕らにとっては「春木屋って何?」という感覚がまったくないんですよ。「ああ、春木屋ね」というくらい、当たり前に身近な存在でした。

松本: 面白いですね。お二人とも、お父さんに連れられて春木屋を食べていた。しかも今は、片方が春木屋を継承する経営者で、もう片方が日本を代表するラーメンの作り手になっている。

「このブランドをなくしてはいけない」。春木屋を引き継いだ理由

松本: 丹さんに伺いたいのですが、もともと好きだった春木屋を事業承継する話が来た時は、どんなお気持ちでしたか?

丹: 最初はやっぱりテンションが上がりましたよね(笑)。

でも、実は最初から「うちで引き継ぎませんか」という話だったわけではないんです。

(春木屋の)二代目から三代目への承継がなかなか進まず、もしかしたら春木屋がなくなってしまうかもしれない、という話が最初に来たんですよ。

それを聞いて、まず思ったのが「いやいや、それはダメでしょう」ということでした。

松本: 春木屋がなくなるなんて、ラーメンファンからすると考えられない話ですよね。

丹: そうなんです。最終的にうちに話が来た時は興奮もありましたけど、最初から「これはなくしちゃいけないブランドだから」という気持ちが強かったですね。

今村さんご夫妻(春木屋の創業家)ともいろいろなお話をさせていただきましたし、春木屋はラーメンブームのはしりのようなお店でもあります。

これを次の世代につなげなきゃいけない、というプレッシャーはありました。

松本: しかも、春木屋ほどの老舗になると、熱心なファンがたくさんいます。富士そばを展開するグループが引き継ぐことで、いろいろな反応もあったと思います。

丹: そこは、すごく気にしていましたね。

例えば「これからどんどん出店するんじゃないか」とか、「味が変わるんじゃないか」とか。

実際には味が変わっていなくても、経営が変わったというだけで「味が変わった」と言われることもありますよね。

そういう捉えられ方をされないように、最初の5年間は本当に気をつけながら運営してきました。

松本: ラーメンファンとして見ていても、春木屋というブランドを非常に大切にされていることは伝わってきます。

丹: ありがとうございます。ただ、富士そばの延長線上で春木屋をどう使っていくのか、という見られ方をすると、誤解が生まれることもあると思うんです。

僕としてはまったく違うものを運営しているつもりですし、そこはお店で出すものや日々の仕事を通じて伝えていくしかないと思っています。

「一度も真似できなかった」と語る、春木屋の凄み

松本: 小宮さんは、これまで数え切れないほどのラーメンを生み出し、人気店として育ててきました。そんな小宮さんから見て、春木屋のラーメンの凄さはどこにあるんでしょうか。

小宮: 僕は昔から、春木屋さんみたいなラーメンを作りたいと思ったことが何度もあるんですよ。

でも、まず麺が一回も近しいものを作れたことがない。スープも同じです。何を使っているんだろうと思って、似たようなものを作ろうとしても、作れたことがないんです。

松本: それは驚きです。小宮さんでも再現できないんですね。

小宮: 僕らが作るラーメンって、例えば煮干しを立たせたり、豚骨を立たせたり、何かをあえて際立たせることが多いんです。

少しバランスを崩すことで、特徴をお客様にわかりやすく伝えるというか。

でも春木屋さんのラーメンは、寸胴の中で全部の味が一つになっているような感覚なんですよ。

何を使っているのか、全然わからない。

その凄みは、自分が作り手になってから、より強く感じるようになりました。真似して作れたことがないです。

松本: ラーメンを作り続けてきた小宮さんが、そこまで言うのはすごいことですよね。

小宮: 本当に唯一無二だと思います。

だから今回、春木屋さんと一緒に商品を作ることになっても、レシピは一切聞かなかったんですよ。

松本: えっ、聞かなかったんですか?

小宮: はい。もう、もし万が一レシピを知ってしまったら、殺されるくらいに思っているので(笑)。

知っちゃいけない情報という感覚なんですよ。

松本: そこまで神聖なものなんですね(笑)。

小宮: だからスープだけを送ってもらいました。

春木屋らしさを残さなければいけない。でも、今までにないものを提案しなければいけない。その両方を成立させるのが本当に難しくて、開発では何度も壁にぶつかりました。

春木屋のスープを濃縮する。前代未聞の「皿中華そば」はこうして生まれた

松本: その試行錯誤の末に生まれたのが、今回の「皿中華そば」です。

そもそも、どういう経緯で小宮さんが開発することになったのでしょうか。

小宮: 春木屋の柴田くん(小宮の学生時代の後輩であり、春木屋の常務)から、夏の限定メニューを一緒に考えてくれないかと相談されたのが始まりです。

ラーメン業界は夏に売上が落ちやすいので、新しい商品を作れないかという話でした。

でも、やっぱり悩みましたね。老舗だから、あまり変なことはできないじゃないですか。

ただ、その思いはきっと僕以上に春木屋さんの方が強いだろうなと。

だったら、僕が思い切って遊んで、何かあったら僕が責任を取ればいいんじゃないかと思ったんです。

松本: 開発中、小宮さんは「春木屋の枠を崩さない」ということを何度もおっしゃっていたと聞きました。特に大事にしたのは何だったのでしょうか。

小宮: 味の方向性と、やっぱり麺ですね。

今回の商品だけを考えたら、もっと合う麺があったかもしれないんですよ。

でも、春木屋さんの麺は非常に特徴的で、僕自身も真似して作れたことがない。だから、この麺をしっかり生かしたかったんです。

それから、スープと油。この部分も本当に唯一無二なので、形は変わっても、春木屋の中華そばを食べているような感覚を持ってほしいと思って作りました。

松本: そこで出てきたのが、春木屋のスープを濃縮するというアイデアだったんですね。

小宮: そうです。個人的に、春木屋さんの材料が倍くらい入ったものを食べてみたい、という思いがあったんですよ。

でもレシピは聞いていないので、僕には元のスープを煮詰めるしか方法がない(笑)。

スープを半分まで煮詰めれば、濃度としては材料を倍使ったのと同じような状態になるじゃないですか。

松本: ものすごくシンプルな発想ですけど、春木屋のスープだからこそ面白いですね。

小宮: しかも、元のスープがめちゃくちゃうまいんですよ。

最初に送ってもらった時、もうタレが入っているんじゃないかと思ったくらいです。

タレも別に届いていたんですけど、「これ、もうタレ入っちゃってるよね?」って柴田くんに連絡したくらい(笑)。

松本: 僕も味見させていただきましたが、あの元スープは本当においしいですよね。

小宮: 寸胴の中の段階で、あそこまで完成されているスープって、あまりないと思います。

だから煮詰めたら、もう、うますぎちゃって(笑)。

松本: 丹さんは完成した商品を食べて、どう思われましたか?

丹: 春木屋のラーメンって、すごくシンプルなのに独特なんです。

だから、実はすごくアレンジしにくい。

富士そばには、そばというものを使っていろいろ遊ぶ文化がありますけど、春木屋は伝統的にも商品的にも、簡単にはいじれないんですよね。

その中で、こういう形でしっかり仕上げてもらえるんだという面白さはすごく感じました。

松本: 小宮さんも、丹さんの試食では緊張したそうですね。

小宮: めちゃくちゃ緊張しました(笑)。

自分の会社では、自分がOKを出したら商品がスタートするわけですけど、今回はそうじゃない。

しかも、春木屋さんのお客様はあの中華そばを食べに来ているわけですから、どう評価されるかも気になりました。

富士そば100店舗を支える「店長の自由」と、「ヒリヒリ感」

松本: ここからは、お二人の経営哲学についても伺いたいと思います。

丹さんのダイタングループは、富士そばを100店舗以上展開されていますよね。僕が面白いと思っているのは、同じ富士そばでも店舗によってメニューが違うことです。

チェーン店なのに、店長さんの個性がすごく出ている印象があります。

丹: それは僕が入社した頃から、ずっとそうなんです。

むしろ昔の方がもっと激しかったですね(笑)。

店長が「ごちゃごちゃ言うな、俺の店だ」くらいの勢いでやっていたので。

その分、味がブレたり、いろいろ大変なこともありました。

だから、チェーン店として最低限守るべきところは整えながら、オリジナルメニューを出せる良さは残してきました。

松本: 店長さんが自分で商品を考えられるんですね。

丹: そうです。今はグループ内の各社で稟議を上げて、OKが出たものは販売できる仕組みです。

店長が考えた商品がよく売れれば、ほかの店舗にも広げることがあります。

ただ、何でも自由にすると大変なので、グランドメニューとして守る部分と、オリジナルメニューを出せる部分のバランスを取っています。

小宮: 僕はそれ、すごくいいと思います。

やっぱり現場で料理を作っている人にとって、自分の商品をお客様に食べてもらえるというのは、大きなモチベーションになるはずなんです。

僕も新しい店をオープンすると、最初はお客様の表情がめちゃくちゃ気になるんですよ。

おいしそうな顔をしているか、そうじゃないか。品定めされている感じがして、ものすごくヒリヒリする。

松本: 小宮さん、オープン初日は必ずお店にいますもんね(笑)。

小宮: そうなんですよ。

でも、僕が作った味をそのまま現場で提供しているだけだと、スタッフはそこまでお客様の反応を気にしないこともあると思うんです。

それが自分の考えた商品だったら、絶対に気になるはずなんですよ。

そのヒリヒリ感って、僕はすごく大事だと思うんです。成長にもつながると思います。

丹: 確かにそうですね。

日常のルーティンの中に「自分ごと」が入ってくるというのは、やりがいにつながると思います。

松本: それに富士そばは、現場の皆さんが元気で楽しそうな印象があります。何か秘訣はあるんですか?

丹: 特別なことをやっているつもりはないんですけどね(笑)。

ただ、うちは8時間の3交代で働いていただく形なので、従業員として生活の基盤を持っている方が多いんです。

そういう環境が、責任感や仕事への向き合い方につながっている部分はあるのかもしれません。

小宮: 僕は外からいろいろな飲食企業を見てきましたけど、富士そばはものすごく働く環境がいい会社だと思います。

従業員への還元も福利厚生もしっかりしている。

そういう環境が、売上や従業員のモチベーションにつながっているんじゃないかと思いますね。

「一緒に夢を見よう」。仲間を大切にする理由

松本: 一方で、小宮さんのお店も、昔から一緒に働いているスタッフが多いですよね。

小宮: そうですね。僕の場合は、もう腐れ縁みたいな人間が多いので(笑)。

僕は自分の商売が何十年も続くなんて、最初から思っていなかったんですよ。

だから、大学を卒業してちゃんと就職しようとしている人に、簡単に声をかけられなかったんです。

それで、地元にいるちょっとフラフラしているやつに「お前、ちょっと来いよ」って(笑)。

もし僕が失敗しても、元に戻るだけだから。

松本: そこが小宮さんらしいですね(笑)。

小宮: ただ、一緒にやることになった以上は、「一緒に夢を見ていこう」という気持ちです。

僕が今まで「こうなったら、こんな未来がある」と話してきたことを、実際に達成してきたから、古くからのスタッフはついてきてくれているんじゃないかと思います。

嘘もつかないですしね。

松本: 以前から一緒に働いている皆さん、文句を言いながらも楽しそうですもんね(笑)。

丹: それは大事ですね(笑)。

松本: お二人のお話を聞いていると、経営スタイルは違っても、現場で働く人を大切にするという部分は共通していますね。

丹さんは、仕組みを整えながら一人ひとりの自由を残す。小宮さんは、仲間と夢を共有して、その夢を実現していく。

どちらも、働く人が自分の仕事に誇りを持てることを大切にされているんだと感じます。

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「店を増やすこと」が、老舗を守ることにつながる

松本: 丹さんは富士そばも春木屋も、先代から受け継いだ立場ですよね。経営するうえで最も大切にしていることは何でしょうか。

丹: 僕は父親から富士そばを継いだ人間ですし、今村さんから春木屋を預かった人間です。

つまり、どちらも後を継いでいる人間なんですよ。

だから、僕の仕事は、次の世代にしっかり残していくことだと思っています。

変えなくていいところは変えない。でも、変わらなきゃいけないところは変える。

その差配を一生懸命やっているだけなんです。

松本: 春木屋の場合は、どんなところが難しかったのでしょうか。

丹: まずは味を残すことが大きなテーマでした。

ただ、今の時代、1店舗、2店舗だけで会社を残していくというのは、なかなか難しいと思うんです。

特にラーメン業界では、腕のある職人さんに働き続けてもらうことも大切です。

だから、2店舗だけ残せばいいという考え方だと、逆になくなってしまうかもしれないと思ったんです。

松本: なるほど。一般的には、老舗の味を守るためには店舗を増やさない方がいい、という考え方もありますよね。

丹: もちろん、家族で営む家業としてなら、1店舗、2店舗を守り続けることもできると思います。

でも僕は、春木屋をそのまま家業として引き継ぐわけにはいかない。

企業として次の世代に残していく必要があるんです。

そのためには、ある程度店舗を増やして、若い人たちにも関わってもらいながら、本店をしっかり残していくことが必要だと考えました。

ただし、春木屋は数をどんどん増やせばいいというブランドではありません。

そこは本当に難しいバランスですね。

小宮: 僕は、その考え方がすごく印象的でした。

僕なんかはすぐに、どうやって店舗展開しようかと考えるタイプなんですけど(笑)。

丹社長とお話ししていると、売上や規模を大きくすることが目的ではなくて、すべてが春木屋を守るためなんだなと感じるんです。

春木屋のDNAを受け継いで、次の世代に続かせるためにやっているんだなと。

松本: 店舗を増やすことと、伝統を守ること。一見すると相反するように見えますけど、長く残すためには両方が必要なんですね。

丹: そうですね。

最初の2年間は、とにかく味をしっかり受け継ぐことに集中しました。

その後の3年間は、店舗を増やせる体制をどう作るかということに取り組んできました。

今村さんたちにも顧問として残っていただいて、見守っていただきながら、最初の5年間を進めてきたんです。

松本: 新しい店舗を作る中で、難しさもありましたか?

丹: ありましたね。

荻窪本店は、本当に職人さんに支えられているお店なんです。職人さんありきの作り方をしている。

でも、そのやり方をそのまま新しい店舗に持っていくことは難しいんですよ。

だから、いろいろな人が調理に関われるように、作り方を少し変えている部分はあります。

その結果、味の違いを指摘されることもありました。

松本: そこは、老舗の多店舗展開ならではの難しさですね。

丹: そうですね。

ただ、こういう形なら次につなげられるのかな、というところまでは来たと思っています。

皿中華そばの開発から、春木屋の顧問へ。二人の挑戦は次のステージに

松本: そして今回、非常に大きなニュースがあります。

小宮さんが2026年10月1日から、正式に春木屋の顧問に就任されたんですよね。

丹: はい。入っていただきました。

松本: 最初は夏の限定メニューの開発だったのが、春木屋の未来を一緒に考える関係になったわけですね。

丹: そうなんです。

僕はラーメンが大好きですけど、もともとラーメン業界の人間ではないので、わからないこともたくさんあるんですよ。

自分たちが良かれと思ってやっていることが、ラーメンファンには違う形で受け取られることもある。

だから、春木屋を次の世代に残していくためには、ラーメン業界の方にも関わっていただいた方がいいと思ったんです。

今回の皿中華そばのご縁もあって、小宮さんに顧問として入っていただくことになりました。

松本: 小宮さん、これはかなり大きな役割ですね。

小宮: いや、もう看板が大きすぎますよ(笑)。

丹: 僕も業界の人間じゃないのに、これを背負ってきたので。少し一緒に背負っていただいて(笑)。

松本: でも、もともと春木屋のファンだった小宮さんだからこそ、できることがあると思います。

小宮: そうですね。

僕のベースには、まず春木屋ファンという気持ちがあります。

そのうえで、ラーメン業界に少し精通している立場から、「春木屋って、こうあるべきじゃないですか」ということを提案していきたいと思っています。

それがプラスになることもあれば、マイナスになることもあるかもしれません。

でも、いろいろな可能性を提示して、その中から春木屋さんに選んでいただく。そういう関わり方ができればと思っています。

「変わらないために変わり続ける」。春木屋が目指す未来

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松本: 最後に、春木屋のこれからについて伺いたいと思います。

丹: やっぱり、次の世代までしっかり残していくことですね。

ただ、今のラーメンの味を守っているだけでは難しいと思っています。

そもそも春木屋は、変わっていくことを許容してきたからこそ、ここまで愛され続けてきたお店なんです。

だから、変化を恐れずにいろいろなチャレンジをしていきたい。

でも、皆さんが想像する「春木屋」という枠からはみ出してはいけない。

そこが老舗の難しさだと思います。

松本: まさに今回の皿中華そばも、その挑戦の一つですね。

丹: そうですね。

これからは小宮さんにも「これはちょっと春木屋らしくないですよ」といったアドバイスをいただきながら、小さなことでも大きなことでも、いろいろ挑戦していきたいです。

老舗だからこれでいい、という考えで小さくまとまらないようにしたいですね。

松本: 春木屋には「変わらないために変わり続ける」という有名な哲学がありますよね。

丹: そうなんです。僕も最初にこの言葉を見た時は、ほれぼれしました。すごいことを言うなって。

実は富士そばも、僕が入社した頃から比べると、味がかなり変わっているんですよ。

麺も変わりましたし、つゆの出汁の量や返しの味も少しずつ変わっています。

10年、20年と経つ中で、まったく同じものでやっていくことはできないんですよね。

まして、今の厳しいラーメン業界で、昔のレシピを預かったからそのまま続ければいい、とは思えません。

春木屋をしっかり残すために、変えるべきものは変えていきたいと思います。

小宮: 僕も「変わらないために変わり続ける」という言葉は、本当に大事だと思います。

でも、変わり方って無数にあると思うんですよ。

どちらの方向に変わっていくのか。

「こういう方法もあるんじゃないですか」「こんな変わり方もできるんじゃないですか」と提案して、その中から春木屋さんに選んでいただく。

そういう役割を担えればと思っています。

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松本: 変わらないために変わり続ける。これは春木屋だけでなく、多くのラーメン店主が影響を受けてきた言葉だと思います。

ラーメンは変わらなければ飽きられてしまう。でも、変えすぎると「昔と味が違う」と言われてしまう。

その難しいバランスの中で、お客様に愛される一杯を作り続けてきたのが春木屋なんですよね。

丹: そうですね。今村家がずっと大切にしてきたことですし、春木屋の中に根付いている哲学だと思います。

松本: 今回の皿中華そばも、まさにその哲学を体現した一杯だったのかもしれません。

小宮: そうですね。僕も春木屋ファンとして、これからの挑戦に関わっていきたいと思います。

伝統を守るとは、挑戦をやめないこと

1949年に創業し、77年にわたって愛されてきた春木屋。

その歴史を受け継いだ丹は、味を守るだけでなく、働く人を育て、企業として存続できる仕組みを作ることに力を注いできた。

一方、数々のヒットブランドを生み出してきた小宮は、春木屋のラーメンを「一度も真似できなかった」と語り、その唯一無二の味への敬意を持って、新しい一杯に挑んだ。

二人に共通するのは、春木屋への深い愛情。そして、今あるものを次の世代へつなぎたいという思いだ。

守ることと、変えること。

一見相反する二つの行為は、春木屋にとって、決して矛盾するものではない。

「変わらないために変わり続ける」。

春木屋が長年大切にしてきたこの哲学は、今やラーメン業界全体にも通じる普遍的なテーマとなっている。

そして2026年、二人の春木屋ファンが手を組んだことで、その哲学は新たなステージへと進み始めた。

今回誕生した「皿中華そば」は、その第一歩にすぎないのかもしれない。

春木屋の新たな挑戦を、自宅でも楽しめる

今回の対談のきっかけとなったのが、セブン‐イレブンの「ラーメンWalker監修商品」として登場したチルド麺「春木屋の皿中華そば」だ。

春木屋の恵比寿店限定メニューとして小宮がプロデュースした一杯をベースに、老舗の味わいを新しいスタイルで楽しめるコンビニのチルド商品として開発された。

スープを濃縮するという独創的な発想は、汁なし麺とは異なる満足感を生み出すとともに、食後にスープが残りにくいという、コンビニならではの食シーンにもマッチしている。

ラーメンWalkerが目指したのは、単に名店の新メニューを商品化することではなく、老舗と現代の人気ラーメン店主が互いをリスペクトし、新たな価値を生み出す。その挑戦を、より多くの人に届けることだった。

春木屋の伝統と、小宮一哲の自由な発想。

その出会いから生まれた「皿中華そば」は、これからのラーメン文化の可能性を感じさせる一杯だ。

ラーメンWalker監修「春木屋の皿中華そば」

ラーメンでも油そばでもない、春木屋の旨味を凝縮した少量のスープを麺に絡めて味わう新感覚の一杯。千切り生姜が味のアクセント。全国(沖縄を除く)のセブン‐イレブンにて好評発売中。春木屋の店舗では、恵比寿店で味わえる。

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プロフィール

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丹 有樹=たん ゆうき(写真・左)/1974年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、テニスコーチとして活動しながら国内のテニスツアーに参戦。その後、株式会社プロテニス日本の設立に参画。2004年に「名代 富士そば」を運営するダイタングループに入社し、2015年に代表取締役に就任。2020年には老舗ラーメン店「荻窪中華そば春木屋」の事業を承継。日本のそば・ラーメン文化の発展に尽力している。

小宮 一哲=こみや かずのり(写真・右)/1976年、東京都生まれ。ファーストリテイリングやセコムでの勤務を経て、2005年に東京・千駄木で「つけめんTETSU」を創業。人気ブランドへと成長させる。2014年に同社株式を売却以降、「伊蔵八」「ナポレオン軒」「清麺 常藤」「ラーメンねぎとん」「札幌ラーメン⑥マルロク」などを展開。卓越した開発力と経営手腕を兼ね備え、ラーメン業界のヒットメーカーとして活躍している。