常識を覆す衝撃の「真鯛らーめん」! 絶対真似することができないという驚きの理由とは!? 真鯛らーめん 麺魚(東京・錦糸町)(後編)
私がラーメンを食べる上で「味」よりも大切にしているのが「物語」。「物語」は何にも勝る最高の調味料。お店がこれまで紡いできた「物語」と、私が勝手にお店と紡いでいる偏りまくった「物語」を紹介します。
先週に続き、2週に渡って私が「物語」を紡ぐのは、強烈な旨味を誇る真鯛らーめんで一躍大人気となり、快進撃を続ける「真鯛らーめん 麺魚」。
前回、店主の橋本友則さんが和食料理人からラーメン店主への「転身物語」を紡ぎましたが、今回はその後編です!
(※前回までのあらすじ)
寿司屋、築地の仲買業者、和食料理人を経て、ラーメン店主の道を選んだ橋本さん。魚を扱う業者が皆、アラを捨ててしまうことに目を付けた橋本さんは、鯛のアラを安く仕入れて、これまでの鯛ラーメンの常識を覆すような濃厚な「真鯛らーめん」を作り上げ、一躍大人気店に。この味を真似するお店も出てきそうなものですが、橋本さんは「このラーメンは絶対に真似されない!という自信があります」とキッパリ。その驚きの理由とは──(前回はコチラ(https://ramen.walkerplus.com/article/4018594/)
橋本さんが「絶対に真似することができない」と言い切る理由。それは、アラの量です。これだけ濃くて強い鯛の味を出すためには、相当量の真鯛のアラが必要です。「麺魚」では、1日100kgもの真鯛のアラを使用しています。100kgのアラとなると、350匹もの真鯛を捌く必要があります。それでようやく250杯分のスープが取れるのです。毎日毎日350匹もの真鯛を扱える業者となると、そうそうありません。つまり、「麺魚」のようなラーメンを作るためには、圧倒的な仕入れの確保が必要なのです。
橋本さんは、築地で勤めていた仲買業者からの紹介で、愛媛県宇和島にある水産会社とのルートを確立しています。この会社は、日本一鯛を扱っている「鯛の元締め」とも言うべき会社で、大手回転寿司チェーン店などにも卸しています。なるほど、大手回転寿司ならば大量のアラが出るワケです。「日本全国探しても、これだけの量のアラを集めるのは至難の業です」。うーん、これは確かに真似ができません……。
「麺魚」に集まるお客さんは増加の一途を辿りますが、その人気が過熱しすぎてしまい、ナント4時間半待ちという事態に。ちなみに、オープン当初は、今の店舗ではなく、その斜め前の店舗で、席数が8席しかない小さな店舗でした。「お客さんが来てくれるのはありがたいが、まさかここまで並んでしまうとは……」と、橋本さんもうれしい悲鳴。ちょうどそんなタイミングで、現店舗の物件が空いたので、すぐさま契約してお引越し。これまでの倍の席数が確保できる店舗になったことで、行列もある程度回避できるようになりました。
それで、空いた旧店舗をそのままスープの製造工場として使用することに。ところが、移転したことを知らずにお客さんが来てしまったり、せっかくカウンター席があるのに使用しないのは勿体ないなと思った橋本さんは、スープ工場用に別の場所を借りて、旧店舗をお店として開けることにしました。これが2018年にオープンした「中華そば 満鶏軒」です。
元々「まるは」で鶏白湯ラーメンを作っていた橋本さんは、「鴨せいろをラーメンにしたら絶対に美味しいハズだ」という想いをずっと持っていて、その考えをさらに推し進めて、「鴨100%のラーメンを作ろう」と決めました。「やるからには、真鯛のように圧倒的な物量の丸鴨を仕入れて、自分で全て捌いて使いたい」と考えた橋本さんは、「まるは」時代のツテを使って、日本ハムから丸鴨のまま大量に仕入れられるルートを確立しました。
使っている鴨は国産ではありません。これを国産にしたら、870円という値段では到底提供することはできません。「ラーメン屋はいかに安いもので、それらしいものを作るかが大切だと思っています。その調理技術が、まさに腕の見せ所なんです」。実際、鴨を一からバラすと、血が凄くて血生臭さが出てしまいがちなのですが、「満鶏軒」の鴨からは、一切感じることはありません。これはまさに、和食の料理人として鴨の調理にも精通した橋本さんだからなせる業です。
また、国産よりも丸鴨で仕入れることにこだわる理由は、「丸鴨を自分で捌くことで、通常あまり出回らないモモ肉も取ることができるから」だと言います。実際個人的には、こちらのロースとモモの2種類の鴨チャーシューは、ラーメンというカテゴリーを飛び越えて、あらゆるジャンルの鴨料理の中でもトップクラスの美味しさだと思っています!
こうして真鯛同様、「満鶏軒」も圧倒的な鴨の迫力で、あっという間に行列店に。しかも、「麺魚」のすぐ近くということもあり、連食してくれるお客さんも続出しました。
橋本さんの快進撃は止まりません。2019年、錦糸町のパルコ内に「麺魚」の支店をオープン。元々、「麺魚」をはじめて1年後の2017年に、「2年後にパルコができるので、その際は是非入って欲しい」と言われていました。すでに「麺魚」はそれなりの人気を誇ってはいましたが、何せ2年も先の話。正直、「夢物語だよな」と思っていたそうです。しかし、その後「満鶏軒」も開き、スープを作るセントラルキッチンまで作り、万全の態勢でパルコのオープンを迎えることができました。パルコ店では、ブリやシマアジの限定メニューを作り、今まで「麺魚」に来たことがない新たな客層の開拓にも成功しました。
もう憎たらしいまでに順風満帆(笑)。取材中、思わず「橋本さん、もうウハウハじゃないですか!」なんて合いの手を入れたところ、「いやいや、おかげさまでここまでは順調でしたが、このコロナで大変ですよ」と。そりゃそうですよね、浮かれてすいませんでした……。
今年3月、橋本さんは神保町に「麺魚」の支店を出しました。
本拠地である錦糸町から程良い距離で、人通りが多い場所と考えて、神保町を選んだのですが、実は橋本さんにはさらなる狙いがあったそうです。神保町店の限定メニューは、サーモン。
サーモンは世界中の人が知っている魚。そう、神保町店ではインバウンドによる盛り上がりも期待していたのです。
しかし……。これ以上は説明不要かと思います。
もちろん、橋本さんは諦めたわけではありません。「コロナのせいで外国人はおろか、日本人にもお店がオープンしたことを知られていない。『サーモンらーめん』は外国人だけでなく、日本人にも十分楽しんでもらえる味ですから、ちゃんと食べてもらえばきっと美味しいと思ってもらえるハズです」。
確かに「サーモンらーめん」は、真鯛や鴨の系譜を継ぐメニューらしく、突き抜けたサーモンの旨味が堪能できる一杯に仕上がっています。大人はもちろん、子供も楽しめそうな分かりやすい美味しさです。ようやく自粛解除になってきた今、神保町店のリベンジが楽しみです!
ちなみに、橋本さんは今、基本お店には立っておりません。「麺魚」が現在の場所に移って、旧店舗をスープ工場にしたあたりから、極力お店に出ないようにしているそうです。これも「兄貴」である三浦さんからのアドバイスでした。
「自分がお店に出るのは簡単だが、そうしてしまうと次がない。従業員に任せて、自分は俯瞰でお店を見ることで、従業員も育つし、お店もネクストステージに行ける」。この考えはまさに、私も以前「鬼金棒」の取材の際(「カラシビ味噌らー麺鬼金棒」の回はコチラ(https://ramen.walkerplus.com/article/4009314/)。に、三浦さんから直接お聞きしたお話でした。
橋本さんは、「『麺魚』が順調に成長したのは、まさにこれを実践したから」だと言います。店舗に立たないことで、橋本さんは各店舗やセントラルキッチンにこまめに顔を出して、スタッフと積極的にコミュニケーションを取ることが可能になりました。「麺魚」には、橋本さんより年上のスタッフが多いので、経験豊富な人生の先輩から教えてもらうことも多いそうです。また、スタッフのモチベーションを高めるために、給料体系も工夫していて、1つポジションが上がるとグンと給料も上がるように設定しています。
さらに、恐ろしいことに橋本さんは、365日ほぼ毎日働いています。というのも、「麺魚」は今、年中無休で営業していて、それに橋本さんは1人で対応しているのです。毎朝4時に市場に行って食材を仕入れ、契約している農家を回って、セントラルキッチンで仕込みをやって、出来上がったスープを各店舗に配達しながら、店舗ごとにミーティングを行う。これを橋本さんは基本毎日やっているそうです。
「別に無理しているという意識はなくて、楽しいからやってしまうんですよね」と笑います。
実際、橋本さんとお話していると、とにかく明るく元気で、バイタリティ溢れる感じが物凄く伝わってきます。確かに無理をしているようには一切見えません。和食に裏打ちされた圧倒的な調理技術を持った上に、楽しみながら年中無休でラーメンと向き合う。これができてしまうのが橋本さんの凄さ。そりゃこれだけ美味しいラーメンを量産できてしまうワケです。
橋本さんの目下の課題は、先述の通り、まずは神保町。そして、かつて「まるは」時代に失敗してしまった「朱華園」風ラーメンのリベンジをしたいと思っているそうです。このあたりの「物語」はファンとしてはたまらないものがありますね!さらに、「実は今、チャンポンの研究をしているんですよ。野菜の美味しさとシーフードの旨味を効果的に引き出すにはどうしたらいいかと……もちろん、そのままチャンポンはやりませんけど(笑)」といった具合に、止めどなくアイデアが溢れ出てきます。
この様子ですと、橋本さんのよる、365日休みなしの飽くなき挑戦は、まだまだ続きそうです!
是非あなたにも「麺魚」そして「満鶏軒」のラーメンを、あなたなりの「物語」を紡ぎながら食べて頂きたいです。
赤池洋文 Hirofumi Akaike (フジテレビ社員)
2001年フジテレビ入社。ドラマ「ラーメン大好き小泉さん」、ドキュメンタリー「NONFIX ドッキュ麺」「RAMEN-DO」などラーメンに特化した番組を多数企画。大学時代からの食べ歩き歴は20年を超え、現在も業務の合間を縫って都内中心に精力的に食べ歩く。ラーメン二郎をこよなく愛す。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @ekiaka
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